●天文台という用語2015/06/12 09:51

「星爺から若人へ」は中学生くらいを対象としています。

●言葉や用語の意味は時代とともに変化するもので、それを星爺は歓迎しています。
「心を折る」(他人の考えを曲げさせる)が→「心がポッキリ折れてしまう」に変わったり、「煮詰まる」(議論や考えなどが出つくして結論を出す段階になる)が→正反対の「行き詰まる」と混同されるようになっても、新しい解釈の方が良いのではないか? と思うこともあります。

「天文台」の“台”の訓読みは「うてな」です。うてなとは四方を観望できるように作った高い土壇、建物、物載せ台の意味です。灯台、展望台、舞台、などがそれですね。なので、望遠鏡の置いてある建物でとくにドームは個人のものでも天文台と呼ばれることが多いようです。
しかし、本来の天文台や気象台の“台”は機関を表す用語です。文部科学省の“省”、警察庁の“庁”や委員会などに類するものです。したがって、公の研究機関でない建物を天文台と称するのは間違いで、ずいぶん不遜なことになってしまうのですが、一般の人々が天文台を「望遠鏡の台(うてな)」と解釈するのなら、その方がむしろ自然な用語とは思いませんか?
広辞苑で天文台を引くと「天文学上の観測並びに研究に従事する機関」となっていました。最近の辞書では公の研究機関であることの他に「望遠鏡のある施設」と併記されることもあるようです。

昔々、民間の天体ドームに「○○天文台」と命名したら研究機関からクレームがあったとか、地方都市のプラネタリウムに天体ドームを新設して「○○天文台」と命名したら市長が激怒して「○○星見台」に改名させられたというエピソードは、天文ファンの星爺には不愉快なので割愛します。しかし、クレームも市長の激怒も本来の意味からは正しいのです。これも昔の話ですが、ある高校生(訂正:記憶違いでした。卒業されてからです)が新彗星を発見して地元の○○天文台に報告しました。「天文台は全部同じ」と思ったからでしょうね。報告を受けた天文台は研究機関ではないので放置したため、高校生は発見の栄誉を逃してしまいました。
国立天文台が研究機関でない天文台に対して用いる「公開天文台」という言い方は、単純に見えてもかなり考えぬいて各方面に気を配った末の、含蓄のある用語ではないでしょうか?
「チロの天文台」「てるてる坊主天文台」「星屑ホイホイ天文台」は、「ラーメン大学」みたいな表現ですから無問題で、オフザケでなく本来の意味を知る人が命名した傑作ではないかと思います。

星爺の後輩で京都大学で冷却CCDの研究をしたことのある教師が自宅を新築した際、屋根に40cm反射望遠鏡の入ったドームを載せて、剣道か柔道の道場のような大きな看板に「○○天文台」と個人名を大書したことがあります。みっともないからやめろ! と進言したかどうかは忘れました。
天文少年少女の皆さんが将来、望遠鏡を設置した建物を所有するようになったとき、「○○天文台」と称することはOKとは思いますが、“台”の本来の意味は知っておいてくださいね。
最後に、客観的に考えるために気象台を想像してみます。個人が自宅に風速計や百葉箱を設置して、「○○気象台」の看板を掲げたら、これはやっぱり相当アブナイ人に見えませんか?

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コメント

_ ムササビ ― 2015/06/12 18:15

・・・なるほど、と思いながら拝見しました。

そういえば、『天文同好会』の名前も様々な話題がありますよね。

『○○天文同好会』にするか、『○○天文研究会』にするか、あるいは『○○星の会』にするかで、会の趣旨や方向性まで決まりそうです。

設立から年数が経過して、会の主要なメンバーが入れ替わると、これまでの『○○天文研究会』という名前が重荷になったりすると考える人も出てきます。
それが新入会員にとって、『高い敷居』に感じてしまうこともあるようです。


以前、胎内で知り合った方からこんな話を聞きました。

同好会の事務局を担当することになったので、アパートに天文同好会の看板を掲げたのだそうです。

すると、大家さんがすっとんできました。

看板は道場のような木の表札で、毛筆で次のように書かれてあったそうです。

『北関東○星会』

_ 星爺 ― 2015/06/12 23:18

ムササビさんへ

『北関東○星会』 はヤクザ屋さんみたいでヤバイですよね(笑)
ヤバイの語源は盗人の隠語だそうで好きな言葉ではないですが、今は便利に肯定・否定を問わず使われていて褒め言葉にさえなっていますね。「JILVA-170の高精度はヤバイ!」とかね(笑)

用語の解釈や用語作りはけっこう大切なことです。「手動ガイド」なんて用語(造語)は誤解の元で大失敗だったと思います(そのうちここに書きます)。「メトカーフ」や「コンポジット」また「アポクロマート」など、間違った解釈や用いられ方をされている用語もありますよね。

_ くりりん大王 ― 2015/06/17 10:02

洲本柏原山市民天文台台長ですが、何か? (笑)

星見台という名称は、私の記憶によれば、用語に非常にこだわりのあられた山本一清先生の肝いりで戦前神戸にあった六甲星見台で最初に使われたのではなかったかと思うのですが、自分の場合現在敢えて遊星だの星霧だのといった用語を使ったりするのと同様のカッコ付けのような印象があって、かえって嫌味みたいな気がして、、、(あくまで個人的感想)

天文同好会の名称となりますと、超大げさな名称の某古参の会が何年か前に内紛で分裂騒動になったとき、元通りの「天文同好会」に名称復帰したらよいのに、と思ったこととか、、、

日本天文同好会が戦前の大阪天文研究会の名跡を継げないかなあ、と個人的に思ってた半世紀昔、電気科学館の故●田さんが佐伯先生も賛成しておられる、とけしかけられたけど、後で聞いてみると嘘だったとか、、、まあいろいろありますです(^_^;)

_ 星爺 ― 2015/06/18 06:30

クリリン大王さんへ

「市民天文台」という言葉はストレートで、研究機関と思われにくい良い言葉ですね。
同様に「個人天文台」というのもストレートで良いかもしれません。

大御所のOさんから、別メールで下記のご指摘をいただきました。ありがとうございます。「公開天文台」の表現は、ある時期から国立天文台の広報文書に突然使われ出したのですが、自称に近いのですか。
それを知ってしまうと、あんまり含蓄のある言葉には感じられなくなりました(笑)。 一般公開していない個人天文台もたくさんありますし。
-------------------------------------------------------------------------
この「公開天文台」という言い方は、国立天文台が研究機関でない天文台に対し
て用いているのではなく、むしろ「自称」に近いと思います。
「公開天文台」という言葉を使い始めたのは西はりま天文台におられた黒田さん
で、それまでは「公共天文台」と言われることが多かったのですが、それでは公
立の天文台に限定される感じがするので新たな名称が考えられたとのことです。
1998年に印刷物として初めてこの言葉が世に出たそうで、この言葉に関して国立
天文台は全く関知していません。

_ vivid blue ― 2015/06/21 09:43

blog開設おめでとうございます。
オーナーさんとは大昔にお会いしてます。その節は,お世話になりました。
せっかく中学生を対象にされているのに,ずーと前に中学生だった人ばかりコメントしていて申し訳ありません。
私も,70年代に望遠鏡を担いで半自動ガイドして遊んでおりましたので,銀塩からCCDへの変化と,家族の理解(本人のごり押し?)もあり,ドーム持ちとなりました。
**天文台というネーミングはつけていませんが,**AOと称してます。
AOはAstronomical Observatoryの略ですが,
「台」の由来とは,ちがい,observatoryなんで,観測に類するようなことをやっていれば,使っていてもよろしいでしょうかね。

_ 星爺 ― 2015/06/21 18:45

vivid blue さんへ

コメントをどうもありがとうございます。
Observatory は観測所という意味ですから無難かもしれませんね。
白河天体観測所(チロの天文台)というのもあるし、星爺もそのようにしたことはあります。
が、やはり 「大学の研究所ですか?」 と聞かれて、大げさなのかな? と思ったりもしました。

アマチュアの小惑星発見の草分けである、故浦田 武さんの観測所は「ヤキイモ・ステーション と称して国際的にも使っていたので、ステーションはどうなのか天文関係のアメリカ人に聞いたことがあります。でも…、
「それは、やはり 駅 です」と言われてしまいました。

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