●ペテン師がデジカメの性能を変える!2015/08/03 02:17

●最初に業務連絡です。天気予報では今日は一晩中快晴ということだったので、JILVA-170をずらりと並べてPモーションテストのために待機しましたが、明け方の薄明前に少し晴れただけでした。残念です。少しでも晴れ間があればテストできますので、ご注文をくださったお客様は、申し訳ありませんが今しばらくお待ちください。


「星爺から若人へ」は中学生くらいを対象としています。
●オリンパス光学がWindows95時代に販売していた画像処理ソフトに、
フォトジャグラーというのがありました。ジャグラーとは魔術師とかペテン師の意味ですが、画像処理の意味を考えると的を得た傑作な命名と思います。

……最初に歴史をさかのぼって、
戦後の日本は軍事産業や重工業を規制されたこともあって、平和産業の光学機器とりわけカメラは大発展を遂げました。日本製のカメラは世界一と言っても過言ではないでしょう。
1960年台前にはA~Zまでの頭文字では足りないほどのカメラメーカーが群雄割拠し、そこから淘汰されて残ったのが現在のカメラメーカーです。高性能なのは当然かもしれませんね。

「どのメーカーのカメラも同じように優秀」 な時代を経験したオジサンや爺さんは、若人の皆さんに好みのメーカーのカメラを買えば良いとアドバイスするかもしれません。昔の経験ではみんな同じように高性能だったのだから当然です。また中古のカメラを勧めるかもしれません。カメラのメカ部分は1960年頃から1990年台までほとんど変わらなかったのだから、これも当然です。

しかし、昔はカメラが写真を撮っていたというよりも 「フィルムが撮っていた」 のです。デジカメ時代は写真を撮るのはカメラそのものなので、カメラによってとくに星野写真に対する性能は驚くほど違います(違いました、ですね。後述参照)。そして常に変遷しています。星用には使い物にならないデジカメも過去にはたくさんあり、新型ほど高性能なことがほとんどなのでデジカメの中古は敬遠するべきです。
富士フイルムのカメラが一番良く写った時代もあり駄目になった時代もあります。星野写真はキヤノンの独壇場だった時代もあります。時代と言ってもせいぜい2~3年の期間なのですが…。
その時代を経験したオジサンや爺さんは、その時代に良く写ったメーカーを勧めるかもしれませんが、カメラの性能は新製品のたびに変化しているので、新製品の発表には常に注目していてください。性能の変化に多大な影響をあたえるのが 「ペテン師」 なのです。

●デジタルカメラの性能を決定するのは以下の三要素になります。

  ①撮像素子の本来の性能
  ②周辺電子部分の品質と性能
  ③メモリに保存する際の画像処理(画像エンジン--ペテン師)

①②③が相互に作用しあって画像を形成しますが、もっとも肝心で常に改良されるのが③です。撮影した画像を瞬時に保存する際のカメラ本体の画像処理で 「やるのは当たり前」 ですから、黎明期にはこの機能に画像エンジンDIGICと命名したキヤノンに対し、カメラ評論家で 「名称を付けて付加価値を出しているだけ」 との見解の人もいました。画像エンジンの威力がどのメーカーのカタログにもうたわれている今は、若人の皆さんはその大切さは理解していますよね? 画像エンジンで性能のほとんどが決まるんですよ。

撮像素子は光子のカウンターであることから、本来の感度はだいたいISO125程度しかありません。なのでカメラファンの話題になる 「高感度特性」 と言うのは本当はあり得なくて、③の画像エンジンでごまかして高感度に見せた結果です。しかし、その画像処理性能たるや 「まるで魔術師!」 「ペテン師!」 です。
あたかも本当に感度が高くなったような画像が保存されます。撮像素子のノイズは原理的に簡単には消せないはずなのに見事に消します(ノイズと一緒に星も消しちゃうカメラもありますが)。画素が詳細になれば1画素の光子カウンターの容量が少なくなってノイズが増えるはずなのに、人間の細胞よりも小さい詳細画素のカメラでも気になるほどのノイズはありません。③のペテン師のワザは①や②の要素の特質など全部蹴散らしてしまうほどスゴイのでしょうね。
撮像素子が生産メーカーから他メーカーにOEMされると、「供給されたメーカーのカメラも同じ性能になる 」と思う人が多いようですが、三要素で肝心なのは③ですから、③も撮像素子と一緒に供給されるのでなければ、やはり性能差や個性の違いは、かなり大きくなると思われます。

●常に進化を続け、突然化けて高性能になることもある!
星爺はペンタックスのデジイチを使って、あまりの星野写真性能の悪さに本気でドブに捨てようと思ったことがあります。オリンパスのカメラはフォーサーズ( 約23×15mmと小さいAPS-Cより小さな17.3×13mm )で撮像素子が小さい分だけ詳細画素のため、ノイズがひどくて星野写真には適さないと信じられていた時代もあります。
しかし、③の画像エンジンが高性能化されると、オリンパスは突然化けたように星野写真に適したカメラになりました。ペンタックスは3年ほど前からイイ味で星野写真を撮れます。両者ともそこそこHαの赤色星雲が写るのは、感度を上げるために赤の透過域をやや長波長側に広げたからかもしれませんよ。 こういうことが年中あるので新製品からは眼が離せません。
P.S. こいつはいくらなんでも長波長側に広げ過ぎかな?

星野写真の高性能ぶりで天文ファンに人気のあるカメラはキヤノンですが、この1~2年でどのメーカーの画像エンジンも進化して、決定的な差はなくなってきました。富士フイルム、オリンパス、ペンタックスの健闘が光ります。詳細画素のうえHα光が写る天文用のニコンの810Aも素晴らしいカメラです。
これらの高性能の要因はほとんど画像エンジンなのですが、ソニーからもうすぐ裏面照射型の撮像素子を採用したα7RⅡが登場します。三要素の①が根本的に進化するので絶対注目ですね!(P.S.ペテン師さんは期待したほど変わらなかったみたいですね)。
こんなめまぐるしいほどの状況なので、目上の人を尊敬することは大切ですが、古い情報はアテにせず必ず自分で、メーカーの宣伝文句にも疑問を持ちつつデジカメを購入してください。

●撮影法や赤道儀の仕様も変わる!
ISO感度の設定を高くし過ぎると、見かけの感度が高く見えるだけで、ノイズばかりの汚い画像になったり画像エンジンが暗い星を消したりしてしまいます。が、最新型の各社のデジカメはISO1000~1600でもノイズの少ない星野写真を撮影できるようになりました。こうなると、光害の少ないかなり暗い空でもJPG保存では適正露出時間はISO1600ならF2.8で1分、F4で2分ほどですから、追尾性精度の良くない赤道儀でも使うことができるし、当然オートガイダーも無用になります。

短時間露出でバンバン撮って多数枚のコンポジット合成をする。たとえば同じレンズでISO200設定で8分露出したのとISO1600で1分露出を8枚コンポジトしたのは、ほとんど同じ品質の画像が得られるので、そのような撮影法も奨励できます。もちろん、こうした撮影法はすでに行なわれていますが、今まではあくまでも追尾精度の悪い赤道儀の 「救済処置」 として行なわれる場合が多かったです。

さらに詳細画像を目指すなら、高価なフルサイズの高詳細画像のカメラを使わずに、高性能なAPS-Cやフォーサーズのカメラを使い、2コマ以上のパノラマ撮影を常用する手もあります。
そんな撮影法に便利なポタ赤を提供する必要が出てきたので、弊社のPanHead EQ も大改良をして近々新しい仕様のバージョンを発表します。

●最後に補足です
原理から言えば詳細画素の撮像素子は1画素で光子をたくさん捉えることができないので、結果的にノイズが多くなって高感度に見せる画像処理はやりにくいです。
先日、キヤノンから超高感度多目的カメラME20F-SHが発表されました。1画素の大きさは最近のデジカメの5μm(ミクロン)以下に対して19μmで面積は15倍にもなります。ただし300万円もします。
星爺は研究者用の裏面照射型冷却CCDを所有していたことがあり、これは1画素が25μmでした。 800万円もするもので、2005年度に編集者を早期退職した際に売却してクルマになりました(笑)
本当の高感度を求めるには、やはり画像エンジンに頼る以前に画素が大きいことが重要です。もしかしたら、どこかのメーカーから一転して大きな画素のデジカメが登場するかもしれませんよ!

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