●スカイウオッチャーの超小型ポタ赤2017/03/12 07:47

◆前の記事の板垣公一さんの高橋FRC300望遠鏡は、海外の超新星捜索者などから多くの問合せをいただきましたが、長野県の別荘観測所に設置されることになりました。

◆JILVA-170はようやく順調に出荷を開始しています。完成が遅れに遅れて申し訳ありません。おまたせしている皆さんには、進捗のお知らせとパーツの確認のメールを逐次お送りしています。
1台ごとに実際の星でPモーションを測定するのは大変でした。公称±4~±5″の追尾精度は、実際はもっと厳しくしています。 結果の悪い個体は再調整またはウオームネジユニットを交換して再測定しますが、調子が悪いと一晩に1台も完成しないことがあります。
毎晩のように待機して何ヶ月もパジャマを着て寝たことがなく、持病の発作が頻発したこともあって、生まれて初めて「精神的な問題で体が動かない」経験をしました。今は落ち着いておりますが。

●素晴らしい設計のスカイウオッチャー超小型汎用ポタ赤
中国SYNTA社のスカイウオッチャーブランドの超小型ポーターブル赤道儀を入手したので概要をご紹介します。 名称は Skywatcher Star Adventurer Mini WiFi Astro Imaging Mount と言います。 日本ではケンコーさんからスカイメモTの商品名でデビューするのではないかと思います。
ポータブル赤道儀として使用する他に、むしろタイムラプスなどの「汎用回転架台」として完成の域に達した素晴らしい設計/仕様です。 SYNTA社とは社長をはじめとしたスタッフの方と10年ほど前にポタ赤の会議をしたことがあります。高い技術を投入した本機の登場に敬意を表します。中国の天体望遠鏡メーカーの事情は拙ブログのここをご覧ください。中国の技術をナメではいけませんよ!

●剛性が高いモノコック構造
Skywatcher Star Adventurer Mini …本体の大きさは75mm角ほどで赤い部分は鋳物で作ったスケルトンのモノコック構造。左右のグレーのプラスチックカバーを外すと中が見えます。 上下に極軸を支えるベアリングが入っていて、ターンテーブルはビクセン互換のアリ溝で安価なポタ赤と異なり粗動回転もします。
動力は超小型ギヤードDCモーター+に簡単なエンコーダのサーボ式で、最高速度は日周運動の50倍くらいのようです。 発振は水晶かどうかはわかりませんでした。 ウォームネジハウジングは精度の高そうなアルミの一体型。 伝達ギヤは立派なスパーギヤが使われています。
ちなみに、弊社の赤道儀はここでも販売されているPM型ステッピングモーターのギヤヘッドが1/72のタイプです。 ビクセンさんのポラリエやAP-1も同様です。
電源は右の写真の向こう側の単Ⅲ乾電池2本の他にUSB外部電源が使えます。 弊社のポタ赤が初めて採用した極望代わりの 「覗き穴」 は照星/照門式で、赤色LEDで穴の中をほんのり照明します。
極軸はφ35程度のパイプで上下端を薄型のベアリングで支え、極軸の中央がφ38(歯数は78?)ほどのウォームホイールになっています。 極軸パイプの中に極望も入れられる仕組みのようです。
各種の設定は本体で行なうのではなく、本体にWifiがありスマホから行ないます。 Wifiの回路は市販の汎用品のようです。ポータブル赤道儀として使うよりも、名称のように「汎用タイムラプス撮影架台」として設計されたようで、タイムラプスの機能は豊富でもちろんカメラのシャッターも制御できます。
写真は水平に取り付けたところです。ポタ赤として使用する場合は、右の写真に見える横のカメラネジで三脚と雲台に取り付けて、撮影地の緯度に合わせて傾けて極軸設置をします。

極軸を強固に支えるには極軸を長くしてベアリング間を離すか、極軸が短い場合は直径の充分大きなベアリングを用いる(高価になりますが弊社の生産するSWATJILVA-170はこれ)かになります。 本機のベアリングは6800系の薄いものですが、適度に大きなベアリングを適度に離したバランスの良い設計です。
特筆すべきは極軸とウォームホイールが一体であること。これにより極軸に対して偏芯の極めて少ないウォームホイールを歯切りできるでしょう。

スマホの画面です。ポタ赤の他にタイムラプスの設定が豊富です。これらの設定をポタ赤本体に設けると、ディスプレイの装着などコストがかかり操作性も悪いですが、スマホなら簡単にできますね。
実は弊社の超小型ポタ赤のPanHead EQは、オーロラ撮影やタイムラプス用として、たくさんの特注品を承っています。カメラのシャッター制御も行なえます。 これを通常のPanHead EQに投入しようとしたら、若いスタッフに 「夜間に使うものなので可能な限りシンプルに!」 と大反対されました。 当然ですね。 しかし、スマホからの制御ならば見やすい画面の豊富なメニューにできるので、夏頃を目処に投入を考えようと思います。

スタッフが動かしてみた様子の動画を以下に掲げましたのでご覧ください。
https://youtu.be/e4ecJOceRj

●ポタ赤としての日周運動追尾精度はどうか?
ウォームホイールの直径から推測すると、超広角~広角レンズ専用と思われますが、こればかりは実際にピリオディックモーションを撮影しないとわかりません。 組立時の各精度の相殺や増長によって、追尾精度は加工精度より良くも悪くもなるので、個体ごとにバラツキもあるでしょう。
Skywatcher Star Adventurer Mini …が出回ったら、ぜひともPモーションの撮影をしてみてください。
↓Pモーションの撮影は下記を参考にしてください。
http://tentai.asablo.jp/blog/2016/04/06/8065995
http://unitec.cocolog-nifty.com/blog/cat23833278/index.html

星爺の同級生に中学生で全金属製の大きな赤道儀を自作した奴がいたくらいで、赤道儀そのものの製作は容易です。 しかし、追尾精度の命となるウォームネジ関連とウォームホイールは、通常の機械加工精度をはるかに超えた異次元の超高精度が必要です。
市販のウォームネジ/ホイールは「たんなる減速比を稼げるギヤ」であり、一日中ガンガン回す装置などに用いられ、ギヤに精度は求められません。 赤道儀用は一日一回転の超低速回転軸の上に高倍率の望遠鏡や望遠レンズを搭載して 「強拡大して見る」 のですから似て非なるモノなのです。

赤道儀のギヤに求められる異次元の超高精度を満足するには、日本の得意な いわゆる 「匠のワザ」 が不可欠です。 タカハシさんは日本屈指の匠の加工屋さんに依頼していると聞きました。 ビクセンさんは仕上がったウォームネジを1本ずつテストしています。 ものすごい「こだわり」ですね!
追尾精度が悪いとされている赤道儀でも、一般的な加工精度をずっと上回る精密な加工が施されているものです。 そうやっても高精度な追尾を実現するのは難しいです。
このことは精密加工の業者さんに話しても、どちら様にも理解してもらえませんね。 異次元の世界のことなので 「精密に作れば、なんたらモーションなど出るはずない!」 な~んて言われたり(笑)

下の図はカメラに一般的な直径70mm(半径35mm)ほどのウォームホイールを重ねたものです。良くできた機械加工の精度は2/100~3/100mm(20μm~30μm)くらいなので、ウォームホイールとウォームネジは20μmの完璧な加工であると仮定しましょう。 これにウォームホイールの半径と同じ35mm広角レンズを搭載すると星は加工精度と同じく20μmブレて写ります。20μmは撮像素子の3~4画素分になるので、35mm広角レンスの追尾がギリギリ可能な追尾精度になります。 Pモーションで表すと約±60″(±1′)になります。 広角レンズの追尾だって簡単ではないのです。
赤道儀用のウオームギヤに、どれだけ異次元の超高精度が必要か図でわかりますね? ちょっとでも手を抜くと、たちどころに超広角レンズも追尾できない精度に落ちてしまいます。
なお、すでにおわかりのように、追尾精度はウォームホイールの直径に比例して向上します。
例えばJILVA-170のウォームホイールは直径約162mmなので、±4″~5″の追尾精度を達成するウォームネジとウォームホイールの精度は約4μmになります。 下の写真は左から、
・SWAT-200の内部ユニット ウォームホイール直径85mm/歯数168枚 Pモーション±10″
・SWAT-350 ウォームホイール直径106mm/歯数210枚 Pモーション±7″
・JILVA-170ウルトラライト試作  ウォームホイール直径162mm・歯数288枚 Pモーション±4~5″
※駆動系はほぼ同じなので、ウォームホールの直径に正直に比例して追尾精度が向上します。

●赤道儀を入手したらPモーションを撮影してみよう
Pモーション(追尾精度)は赤道儀、とくに撮影用ポーターブル赤道儀の命です。 追尾不可能なレンズで撮影するのは無駄なので、赤道儀を入手したら まず最初にPモーションを測定しましょう。 タオルを買ったらまず洗濯する、中華鍋を買ったら高温で焼く、バイクを買ったらブレーキパッドを焼く、野球のグラブを買ったら保革油を塗る、と言うようにユーザーがPモーションを測定することが常識になれば良いと思います。

下の写真は日本では販売していない「輸出用のSWAT-300」の不良品のPモーションの写真です。 日本で販売しているユニテックのSWAT-300よりも小さなポタ赤なので、Pモーションは±10″程度で測定しないで出荷しています。 追尾が不調であることをお客様が気付いてPモーションを撮影され、±13.5″程度なことが判明して返品交換させていただきました。
Pモーションを正確に測定するには1000mm以上の超望遠レンズや望遠鏡を用いますが、撮影に使うレンズを追尾できる精度が有るか無いかをチェックするだけなら、そのレンズで撮影すればわかります。 超小型のポタ赤なら50mm標準レンズでも可能。 上の写真はお客様ご愛用の180mm望遠レンズで撮影しています。
極軸の方位を大雑把に1°~2°ズラして天の赤道付近を撮影します。極軸の上下もズレると星の軌跡が南北に流れず、写真のように斜めに流れてチェックが甘くなりますが、だいたいの精度と傾向は把握できます。南北に流れた星の軌跡が強拡大しても分からないほど直線なら完璧です。 しかし、実際の撮影では少し曲がりが見えても問題ありません。
180mmの望遠レンズを長時間露出するためには±10″程度の精度が必要です。
星像の直径を20μmとした場合のPモーションの許容範囲は下記のようになります。
・25mm広角レンズ-----±80″
・50mm標準レンズ-----±40″
・100mm望遠レンズ----±20″
・200mm望遠レンズ----±10″
・300mm望遠レンズ----±7″
・500mm望遠レンズ----±4″
※最新のカメラとレンズの場合は星がシャープに写るので、星像の直径は15μmと厳しく見積もるべきかもしれません。が、神経質になる必要はありません。
※500mm以上になると大気の揺らぎにより星像がボケるので、追尾精度は悪くて良いようになります。大気の屈折や機材の撓みによる流れが現れるのでオートガイダー使用すると安心です。

※株式会社輝星の運営する「SB工房」はこちらです。

コメント

_ ムササビ ― 2017/04/03 16:03

昔、高槻さんが「天文ガイド」に発表されたポータブル赤道儀・ポケッダブル赤道儀も 「モノコック構造」でしたよね。

剛性のあるボディで極軸を保持し、タンジェントスクリューで細かい動きで追尾するスタイルはとても優れた設計だったのではないでしょうか?

実際にあの赤道儀が発表されてから少なくとも10年くらいは、「私の愛機」に真似をした自作のポータブル赤道儀が発表され続けましたよね。

私も高校生の頃に真似をして似たような赤道儀を自作しました。

私は掲載当時の「天文ガイド」はもちろん持っていなかったので、後日発行された高槻さんの自作記事が掲載されたムックを購入しました。

ところが肝心の高槻さんが執筆されたページが落丁で抜け落ちていました。

読めたのは最初と最後のページだけでした。

当時はクレームをつけて交換して貰うような度胸はなく、ひたすら落丁ページを想像して、高槻さんの記事の内容を想像していました。

でも逆にそれが勉強になったような気がしました。

_ ●星爺より ― 2017/04/04 05:44

ムササビ様、コメントをありがとうございました。

1968年の天ガの『ポータブル赤道儀の自作』の1号機は中学二年のときに作ったものです。落丁のあったムック(別冊)の『自動ガイドのポータブル』は18歳の時の執筆です。 なんか一生ポタ赤を作っているようでバカみたいですね(笑)
原稿を書くときは、これを参考に「もっとずっと良いポタ赤を作ってくれるはずだ」と思ったのですが、現実は元ネタよりも良い機材を作る読者の方が少ないことを学びました。

『天文ガイド』は小学生向けの『子供の科学』の読者が中学生になったときに、継続して買ってもらえるように登場しました。 電気の分野では『初歩のラジオ』。『学生の科学』というのもあったんですよ。 なので、読者対象は賢い小学生から中学生くらい。本当は極めて特殊な撮影法である、ドイツ式赤道儀の「手動ガイド」は、プレゼントで買ってもらった玩具の類の赤道儀と父親のカメラで、どうやったらお金をかけずに「とりあえず星野写真を撮れるか?」が企画の元になっています。それが器用さの必要なことや根性論で趣味性を生んで、むしろかえって普及したのはおもしろい現象と思います。
科学少年なら、まず電動の赤道儀を自作するはず…。 というわけでもなかったようです。ドイツ式赤道儀の上にカメラを搭載する手法を「本式」と思っている人も多いようですが、そうした手法は非常にイレギュラーで小中学生向けが元なんですけどねぇ。

赤道儀を作ること自体はとても簡単です。ポタ赤なら1軸でドイツ式でも2軸しかないのですから(笑)。
しかし、ほっぽりっぱなしの「ノータッチガイド」で撮れる精度のギヤを作るのは非常に難しいです。ポタ赤を作るメーカーさんが増えたのは喜ばしいのですが、ビクセンさんやタカハシさん以外は、ずいぶん悲観的な追尾精度です。 そこで、精度をカバーするためにオートガイダーや電子極望を取付けてとなると、その作業が趣味性を生んで、かえって楽しい世界を構築するのだと思いますが、追尾精度を追求しないのは本末転倒なような気もします。
といっても、SB工房ではオートガイドセットや電子極望をテスト販売しています(そろそろオフィシャルにアナウンスします)。ムササビさんもご興味があれば、お問合せください(笑)

_ 宇宙人 ― 2017/05/22 23:16

紹介されてたポタ赤がスカイメモTとして6/16に発売のようです。
が、個人的にはスリックのSMH-250の微動雲台が気になります。
オルゴール赤道儀かPanHeadEQに良さげですが、果たして本当に3kgも耐えてくれるのか、ちょっと色々心配してしまいます。
(試しに買ってしまいそうで、久々に物欲に侵されてる自分と戦ってます(^_^;)

_ ●星爺より ― 2017/05/23 02:25

宇宙人様、コメントをありがとうございました。

スカイメモTは10年ほど前に弊社のポタ赤 PanHead EQの原型の、そのまた原型を見せたことのある中国のメーカーの生産です。 ポタ赤が流行って嬉しい限りですが、問題は追尾精度なんですよね~。 はたしてどれくらいの精度か? 短めな望遠レンズは使いたいですからね。
スリックの2軸雲台SMH-250は写真を見る限りなかなか良さげですね。 同様な仕組みの架台はタカハシさんにもあります。 弊社にも「シーソー式微動架台」という似たようなのがあります。→https://drive.google.com/open?id=0B1fVlS62Am2HdnlLOXVDVy1nU2M
頑丈で合理的な仕組みと確信していますが、こういう形状はどうもウケないんですよね。 この手の架台はドイツ型赤道儀の下部のような仕組みが「本式」と思っている天文ファンが多いようです。
耐荷重は皆さん注目しますが、この業界には規則や規格はないので、ずっと以前にタカハシ会長の高橋喜一郎さん(個人)とお話したときは、耐荷重を記さないわけにもゆかないので「まぁ、少なめに記しておくのが良心的でしょう」ということになりました。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://tentai.asablo.jp/blog/2017/03/12/8402732/tb