●スマホによる月面撮影2017/04/14 03:44

●最初に業務連絡です
JILVA-170の生産は順調でしたが、また持病の発作が頻発して納品が遅れ始めました。 お待たせしているお客様には本当に申し訳ありません。
ナンチャッテ正立極望をご注文いただいたリストのデータベースが不調のようです。 この2ヶ月以内にお問合せいただいた方で商品未着の場合はお知らせください。

●明るい月面ならスマホで撮れない理由はない!
このようなことを10年ほど言い続けているのですが、誰ぁ~れも信用してくれません(笑)。 が、縁あって山本 整さんがスマホ撮影をしていることを知り、いろいろ協力させていただいています。 山本さんは 私の息子達よりも若い自称初心者の天文ファンです。 年齢に関係ないお付き合いのできるのは趣味ならではの楽しみですね!
まずは作例をご覧ください。 山本 整さんの撮影で最終的な画像処理は星爺が行なっています。 好みで眩しい感じに仕上げています。
望遠鏡はタカハシTSA120型口径120mm 焦点距離900mmに1.6倍バーローを付けて焦点距離1440mm F12 ニコン5mmアイピースとギャラクシーS7スマホによるコリメート法です。
「スマホで撮ったなんてウソだ!」 と疑われるほど良く写っていると思いませんか?

こちらも山本 整さんの撮影。 下に月面撮影の第一人者であるユニッテック(株)の加曽利社長(ポタ赤SWATなどを販売)が偶然同じ日に 口径107mmアポクロマート屈折をポタ赤SWAT-350に搭載してキヤノン6Dで撮影された素晴らしくシャープな月面を掲げます。四角枠内を比べてみてください。

光学系はこのように組んでいます。 コリメート法ですがスマホのカメラレンズの焦点距離は5mmくらいなので、タンデムリレー系ではほとんど拡大していません。 下の写真はTSA120屈折をビクセンの赤道儀に載せたところ。 天頂プリズムを使用しています。 都内の光害の多い場所。

●コリメート法の要点
スマホカメラでの撮影は、必然的に「コリメート法」になります。 コリメート法は初心者向けとされていることから(?)、詳しく解説されたことがないようなので、この際に要点をまとめます。
コリメート法は、アイピースを「コリメーターレンズ」に代用するテレセントリックのタンデムリレーです。 望遠鏡の直焦点の像をアイピースとカメラレンズでリレーして撮像素子に投じるので、アイピースの焦点距離とカメラレンズの焦点距離の比率で、撮像素子上の像の大きさが決まります。

肉眼の代わりにカメラレンズで「アイピースをのぞく」のがコリメート法ですが、アイピースの主点(アイレリーフ)とカメラレンズの主点を正確に合せないと収差が発生します。 つまりアイピースとスマホカメラレンズの間隔がとても重要です。  上の図のようにカメラレンズを中心にしてレンズを傾けても、像が動かない位置が主点同士が正確に合った位置です(スネルの法則による)。
※このことに言及した書物は無いようで、間隔調整を能率的にできるアダプターも無いようです。

アイピースとカメラレンズの中心も正確に合せないと収差が発生します。 カメラレンズの大きさに反比例して中心合せがシビアになるので、レンズのとても小さなスマホカメラでは深刻な問題です。 作例の下の方で二線ボケが認められるのは、中心合せが不正確なためと思います。
※肉眼でのぞく場合は意識せずに中心や主点の合った快適に見える位置に眼がいきます。 が、眼視の経験から眼の代わりにカメラを使っても同じだ…と思っちゃうのが落とし穴ですよ!

アイピースをのぞいて肉眼でピントを合せると、健常眼では25~30cmの距離にピントが合います。 本来は無限のピントに合せてカメラレンズも無限にしないと収差が発生し、ピントの深度も浅くなります。 しかし、オートフォーカスを利用するなら、肉眼でピントを合せた方が便利かもしれません。

●スマホカメラで月面が良く写る理由

スマホカメラの撮像素子は非常に小さく、35mm判フルサイズカメラの1/6くらいしかありません。 そのため、画素も非常に小さくて基本性能が低く、きれいな写真を撮るには不利なのですが、カンカン照りの日中の風景ならばフルサイズに遜色のない描画をしますよね? スマホでも月面が良く写る理由はこれ 被写体がカンカン照りの風景なみの明るさなら、普通にきれいに写るのです。

フルサイズカメラで月面を強拡大すると、像が薄れてずいぶん暗くなってしまいます。 しかし、フルサイズと同じ構図なら、スマホカメラは1/6の拡大率になるので像の明るさは36倍にもなります。
上の図のように、今回の作例の装置ではタンデムリレーはほとんど等倍なので、撮像素子に投じられるのは1440mm F12の像です。 月は太陽からの距離が地球と同じなので、カンカン照りの日中の風景と同じ明るさです。 F12ならばISO感度100で1/125~1/250のシャッターを切ることができます!
35mm判フルサイズ換算では、焦点距離8640mm F12相当とスゴイことになっているわけですね。

●スマホカメラの問題点と可能性
スマホカメラの仕様/機能は千差万別で性能にも差があります。 今回は高性能なギャラクシーS7(上の写真)を使ったのも成功の鍵と思います。 
市販のスマホカメラのアダプターは初心者向けの汎用型です。 主点合せや中心合せがやリにくいので、スマホを正しく装着できるオリジナルのアダプターを製作する必要はあるでしょう。 
スマホカメラにはオートフォーカス、自動露出、ボカシ撮影、カメラ内部の画像処理など多くの便利機能が搭載されていますが、 これらの機能が便利なこともあれば不便なこともあるので、うまく使ったり使わなかったり、「カメラの機能を騙して使う」ような工夫も必要になります。

動画も撮影できるので、惑星撮影のウェーブレット処理もうまくゆく可能性があります。 惑星は月よりも暗い(大接近時の火星は反射率が高く月より明るい)ので像をもっと明るくするため、望遠鏡は口径20cm以上が望ましいかもしれません。 「口径は命!」 「大口径の分解能が肝心」と言われることが多いようですが、実はそうでもなくて「明るさが肝心」です。
結果的に口径が大きいと像が明るかったり、重くてブレにくいので良く写ることもあり得ます。

この装置の1.6倍バーローを外して元の焦点距離 900mm F7.5にしてアイピースを25mmに交換すると、タンデムリレーで約1:5 に縮小されて 7.5÷5=合成F1.5 と非常に明るくなります。 ただし、このスマホカメラのレンズはF1.7なので、うんと縮小しても光線がケラレてF1.7以上には明るくなりません。
このようなリレーレンズは、両方とも同じレンズの場合はタンデム(連結、二人乗りの意味)リレーと言われます。 本稿では片方のレンズが異なっても便宜的にタンデムリレーと称します。 縮小する場合は、縮小光学系とか縮小コリメートと言われることが多いです。
このようにすれば、明るい惑星状星雲や球状星団などなら、スマホカメラで案外写る可能性もあります。 そこそこの写真が撮れてしまったら痛快ですね!
↓下にこのような縮小コリメートの作例を掲げました。 スマホでなくコンデジのPanasonic LX-7の作例ですが、合成焦点 F1.4の威力がわかると思います。

いずれにしろ、スマホだから、初心者向けのコリメート法だから、と簡単に考えずに理論から導いた正しい使い方と装置を確立したいものです。 山本 整さんとタッグを組んでやってみます。
皆さんも、とりあえず明るい月面でスマホ撮影を試してみませんか?

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●●縮小光学系による星雲・星団(2017_04_18追記)●●
コメント欄に北杜の犬さまから縮小光学系の話題をいただきました。 今後のネタの予定でしたが、前倒しで作品を3点お目にかけます。 撮影は小惑星ハンターとしても名高い平澤正規さん。
いて座の散光星雲 M20 25cmF5.6反射にXW20mm+LX7でF1.4。 ノータッチガイド 露光時間は被写体に合わせて40秒~ 1分と短くてOK。 4枚ほどコンポジットしています。 以下はデータ同じ。
いて座の球状星団 M55 まばらで地味な球状星団ですが、たっぷり露光でハデに写っています。
おおぐま座の M109と周辺にたくさんある小さな銀河。 好条件だと19等の銀河が写ります。


星雲・星団にはスマホではなく、コンパクトデジタルカメラのPanasonic LX-7を使います。
10年ほど前から星爺が平澤さんや有志の皆さんと取組んでいる手法で 「縮小コリメート」 と称しています。 原理はスマホの解説と同様で、タンデムリレーの縮小率を1/4.25と大きくして、LX-7の 4.7mm F1.4 を生かせる明るさにしています。 撮像素子が小さくて、レンズが明るくてシャープで、マニュアル操作が豊富なカメラが適しますが、LX-7以外にはなかなか目的に叶ったカメラがありません。 いずれ詳しく発表しますが、今回はとりあえず作例写真と構想を練っていた頃の概念図をご披露します。
光学系が複雑になるので欠点も多く、これからも改良を続けねばなりません。 でも、F1.4の非常に明るい光学系は撮影失敗もなく、楽で楽でやめられません!  ふつうの長時間露出の直焦点撮影はバカバカしい?(笑) 平澤さんは短期間に500カットほどの作品を撮影されました。


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