スキャパレリの見た火星はコレか?2018/07/21 07:27

●火星の大黄雲が晴れてきました! これは「大幸運」!
※この数日間で大黄雲はどんどん薄くなっているようです!
いつもご指導をいただいている土生祐介さんから、オーストラリアで撮影した火星の赤外線撮影の波長を変えたテスト画像をいただきました。 7月31の大接近に向けてご紹介します。
土生さんは元コニカミノルタで医療関係の画像処理を開発されていました。 40歳代で意気軒昂です。 昔は『天文ガイド』の執筆もお願いしたことがあります。 数学のスペシャリストでアマチュア天文家で画像処理の専門家ですから無敵です! コンプライアンスの問題ですぐには無理でしょうが、いずれは高度な数学を駆使して天文用画像処理ソフトを作っていただきたいと願っています。

大黄雲が発生して模様が見えなくなっていた火星面は、大黄雲がだいぶ晴れてきて日に日に模様が見えるようになってきました。 どうやら高い山や高地は黄雲の影響が薄いので、そこだけ黒っぽい模様がハッキリと見え、全体的には通常の火星面とは異なる複雑な模様に見えるようです。
と言っても眼視ではまだまだ見えにくいですが、赤外線で写すと雲が透けて模様がはっきり写ることがあります。 6枚のフィルターでテストした下のモノクロ画像を見ると、760nmのシャープカットフィルターがもっとも明瞭ですね。 これは普通の赤外線用SCフィルターとほぼ同じ特性です。
このカラー写真は星爺の責任で、 土生さんの760nmの写真をL(下のモノクロ写真)画像に使い、 以前に写した火星のカラー写真をLab分解してボカして、abの色画像を合成してカラー化したもの。 
画像にコントラストが欲しい場合は、明瞭に写ったモノクロ画像を元にしてLab合成、またはCMYKやLRGB合成をすると明瞭な感じになることがあります(多少インチキっぽいですが)。
フィルターは、フジのアセテートなら格安で短波長から赤外まで入手できます。  Celestronの火星用フィルターセットの中にある、青と赤外を通す干渉フィルター(カラーで写すと赤紫色になる)も高コントラスト化に良いフィルターだと思います。
赤外線のテスト写真。 左上がフィルター無し。 左下が760nm。
テスト画像は7月10日の22時40分にオーストラリアにて撮影。
望遠鏡:ARIES Instr.-Ukraine 178 mm F/8 Doublet Fluorite Apochromat  バローレンズ:テレビュー 2.5x パワーメイト  カメラ:ZWO ASI120MM-S
土生さんは口径18cmのアポクロマート屈折望遠鏡をオーストラリアで入手され、日本からでかけて観測しています。

●スキャパレリの見た火星はこれなのか?
薄くなった大黄雲を通した火星の写真を見ると、スキャパレリの火星のスケッチを思い出します。 彼の見た火星は同じように大接近時に大黄雲が晴れつつある状況だったのでしょうかね?
天文ファンには笑い話の逸話とされていますが、イタリアのミラノ天文台長で1877年の火星の大接近を口径22cmの屈折望遠鏡でスケッチしたスキャパレリは、火星の表面全体に「筋状の模様」を描き、その後の二度の大接近でも同様なスケッチ観測を得ました。
イタリア語の「筋」が英訳で「運河」になってしまい、それを受けてアメリカのハーバード大学出身で大富豪のローウェルは私財を投じてローウェル天文台を建設。 火星のスケッチを行ない運河を作った火星人の存在まで唱えました。 彼は実業家なので大宣伝してスポンサーが欲しかった?
しかし、今回の火星を見ると、スキャパレリやローウェルの観測は笑い話でもホラでもなく、晴れつつある大黄雲を通して、見た様の「」を正直に描いたのではないかとも思ってしまいます。

●カラー合成----油絵と線画の違い
上のカラー合成について少しお話します。 うんと簡単に乱暴に言えばRGB画像は色だけで絵を描く「油絵」で、Lab画像は黒白墨絵線画の「塗り絵」です。 輝度信号のL(黒白)でていねいな黒白の線画を描いて、そこにab二種類の色信号を塗ってカラーの絵にするという理屈です。
黒白線画の方が細かな描画が得意です。 子供の頃の塗り絵で経験するように、色はベタをしっかり塗るよりも粗くざっと塗った方が線画が生きて良い感じになります。 それと同じ理屈か? ab画像はボケていた方が疑似画像も発生しにくく、 かえって良い感じになります。
モノクロ(黒白線画)の撮像素子の方が高詳細/高感度ですから、大事な画像をLで写せば、abは極端に言えば色さえ出れば質はどうでも良いとも言えます。

惑星のL画像は人間の視感度に近くしたいならL画像はG(緑)で写すべきですが、コントラスト高く鮮明に写るなら全波長でも良く、紫外や赤外でも何でもモノクロ画像が明瞭ならば、専門家の観測でない鑑賞写真としてなら それをL画像にしてOKと思います。


◆最近の健康状態
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実は先週と今週の二回、また歩けなくなってしまいました。 左眼がガタガタに歪んで暗く見える症状も治りませんが、見え方に慣れてきたので眼が回って嘔吐することはなくなりました。 今回のブログは代打ちしてもらって作りました。
頂戴するメールになかなか返信できず大変失礼をしております。 深くお詫び申し上げます。 頑張って順番に返信させていただいています。

●SB工房2018年の製品情報のブログを開設
2018年6月から「SB工房2018年の製品情報」(←クリック)を開設いたしました。 HOME-PAGE形式はプログラムを書く体力がないのでBLOG形式にして代打ちしてもらいます。 表現力はHOME-PAGEに劣りますが、製品情報を迅速にご案内して参りますので、どうぞよろしくお願いします。
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●南半球の極軸設置2018/07/07 02:34

●SB工房2018年の製品情報のブログを開設
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●南半球の極軸設置
弊社のナンチャッテ正立極望の説明書にある図の評判が良いので、夏休みを利用して南半球に遠征する人のためにご紹介します。 写真に文字を入れた下の図です。
極軸設置は極望のスケールパターンによって手順が異なります。 また、ナンチャッテ正立極望は単眼鏡を改造した正立像なので双眼鏡などの視界と比較しやすいですが、ふつうの倒立像の極望では、南半球では ちょっと苦労するかもしれません。

天の南極に近い南極星とも言われる、はちぶんぎ座σ星(σOct、5.45等星)を、極望の視界のスケールパターンに印された位置に導入します。 北半球で北極星を導入するのと同様です。 しかしσ星は肉眼でやっと見える暗い星なので、まずは星座早見盤などで大まかに確認後、双眼鏡やオペラグラスでσ星と近辺の星で形成される小さな台形の配列を見つけます。
南半球の極望の時角合せは仕組みによって異なりますが、ふつうは南十字とカノープス(αCar=りゅうこつ座)とアケルナル(αEri=エリダヌス座)の3つか、または2つの方向で時角を合せます。 そして、 はちぶんぎ座σ星を所定の位置に導入します。 台形の配列でさらに正確に時角を合せられるので、慣れれば北半球の北極星よりも むしろ正確な極軸設置ができます。

画像をクリックすると拡大します。 南十字の左下隣がコールサック(石炭袋と呼ばれる暗黒星雲)。 南十字の右の方の赤い星雲が前回の記事でオルゴール赤道儀で撮影したエータ・カリーナ星雲です。
ちなみに、極軸だけのポータブル赤道儀の中央に「雲台をポンと取付けただけ」の場合、北半球ではケフェウス座付近に向けにくい(死角になる)のですが、南半球では その死角が南十字やマゼラン雲付近になるので要注意です。

ナンチャッテ正立極望のスケールパターン。 時角の調整は極望全体を回す方式です。
北半球/南半球兼用で、北半球の星は○印で南半球の星は☆印で描いてあります。
北半球用の時角合せは、北斗とカシオペヤのWの方向を目視して合せる方式と、こぐま座β星(βUMi=コカブ)の方向で合せる方式の二種類。
南半球用は、南十字とカノープス(αCar)とアケルナル(αEri)の方向が描かれています。 南極星を導入したら、小さな台形の線つなぎの3つの星マークに各星が入るように極望を少し回して時角を合せ直すと、より正確になります。
空の良い観測地なら、大小マゼラン雲で時角調整する手もあるかもしれませんね。

ナンチャッテ正立極望のPDF説明書はこちらでダウンロードできます。 取説ではありますが、極軸設置の概要がおわかりになると思います。 製品紹介のサイトはこちらです。


●ユニテック社SWAT-300の展示品を特価でもう1台!
前回ご紹介した、特価品/ワケアリ品のSWAT-300やオルゴール赤道儀は即日完売になりましたが、ユニテック社のSWAT-300の展示品(塗装バージョン)が、また1台出ましたので、早い者勝ちの特価販売をいたします。  細かなスリ傷はありますが新品同様です。 オーバーホール済みです。 通常価格112,000を弊社製ベンチバー(←クリック 8,000円)を付けて、特価:85,000円(税別)でお願いします。

ユニテク社のSWAT-300
ユニテック社SWAT-300と右はSWAT-300にベンチバーを取り付けたところ。

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●輸出用SWAT-300の出物が3台あります2018/06/26 09:02

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●輸出用だった最後のSWAT-300のお買い得品
今回はお買い得な輸出用SWAT-300です。 在庫が3台あり早い者勝ちです。
現行のSWAT-300は、ユニテック社に納品していますが、以前は名称が同じで仕様の異なる輸出用のモデルがありました。 機械加工は台湾のLONG PERNG社(米国製など超高級接眼部のOEM、高性能屈折望遠鏡のメーカー)で行ない高精度な仕上がりです。 LONG PERNG社の会長さんは星爺と同い年で孫の年齢も同じ、長男の結婚式にご祝儀をいただくなど懇意にさせて頂いています。
100台だけ作って最後の余剰部品で3台組めたので特価販売いたします。
現行SWAT-300がウォームホイール210歯に対し輸出用は200歯で 5%ほど追尾精度が劣ることになりますが大差はありません。 特長はガリレオ式の口径11mm 2.2倍極望を内蔵していることで、高精度な極軸設置の必要ない広角レンズ~標準レンズでの撮影には便利です。 もちろん通常の外付け極望、弊社のナンチャッテ正立極望も取付けられます。
特価70000円で。 極軸まわりのバランス調整に 必需品のベンチバーをサービスいたします。
詳しい製品情報は こちら にあります。


 上の赤いのがSWAT-300。中央右奥の穴が口径10mmのガリレオ式極望です。下の写真はサービス品のベンチバーで、 写真はユニテック社の国内用SWAT-300に取付けたところです。

●山根 悟さんの輸出用SWAT-300の作例
お客様より寄せられた作例をご覧ください。 撮影者の山根様には、口コミ情報で1年ほど前に輸出用SWAT-300をお買い上げいただきました。 ニコンの180mm望遠レンズで、ガイド鏡なしのノーガイドで楽しまれています。撮影条件は以下のとおりです。
・カメラ: Canon D80 (SEO-SP4) ・レンズ: Nikkor 180mm F2.8ED ・ ISO 3200 / F4 / 170秒露光で 20枚撮影してコンポジット合成。 輸出用SWAT-300にてノータッチガイド。
M31 アンドロメダ大銀河

M45 プレアデス星団

山根さんの輸出用SWAT-300のシステム。 三脚はビクセン。 極軸設置は三脚の伸縮。 ナンチャッテ正立極望(←クリック)。 ユニテックのダブル雲台ベース。 スリックのバル自由雲台。 オートガイダーはこの写真はつないでいますが、180mm望遠には不要なので使わなくなったそうです。

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●火星に大黄雲が発生し始めたようです2018/06/14 16:20

大接近をひかえた火星に大黄雲(ダストストーム)が発生し始めたようです。 このまま広がり続けて行くと火星全体がオレンジ一色に覆われてしまうかもしれません。
火星の地球への大接近時、すなわち太陽にも近いときの火星に起こる「季節の風物詩」です。
望遠鏡を向けても火星の模様は、ほとんど何も見えなくなるかもしれません。 でも、隣の惑星に起こっている「大砂嵐」が見えるのです。 それがアマチュアの天体望遠鏡でもわかる。 たとえアキダリアの海が見えなくなっても、極冠が薄れてわからなくなっても、それはそれで大変なドラマじゃないですか!  惑星間を股にかけた「壮大なスペクタクル」ですね。

星爺は、1971年の火星大接近時の大規模な大黄雲を見ています。 最接近の頃は大学1年生でした。 理学部にあったツアイスの13cm屈折経緯台(丸太のような三脚!)で見た火星は、明るいだけでオレンジ色のノッペラボウでした。
それがトラウマになって「火星大接近」と聞いても「どうせ模様は見えなくなるんだろう」と、なかなか興味がわきません。 若人たちに興味を持ってもらうためにも、大黄雲は大規模になってほしくありません。

◆最近の健康状態
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足の方はなんとか普通に歩けるようになりましたが、左眼がガタガタに歪んで暗く見える症状は治りません。 しかし見え方に慣れてきたので、スマホで方眼グラフを見て眼の調子を確かめながら、SNSのコメント打ちでリハビリをしています(スマホは日本語変換が簡単なため)。
相変わらず頂戴するメールになかなか返信できず大変失礼をしております。 手伝いの人の応援で受注品を製作していますが、遅れに遅れて申し訳ありません。深くお詫び申し上げます。
本日からメールの閲覧と返信に復帰します。 このブログもなんとか自分で打ってみました。
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SUPERSTAR_Vによる6月14日02時の火星の位置(上の画像をクリックすると拡大されます)。
星空シミュレーションソフト SUPERSTAR_Vのサイトはこちら(http://www.sstar.jp/

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●胎内星まつり は断念しました2017/07/25 04:55

●「胎内星まつり」 と 「アメリカ日食」は行けません
星爺はこの2周間ほど体調不良で歩くことができない状態でした。 また 片方の眼が良く見えなくなって細かい作業ができません。 前回のご報告より更に悪化して健康が大ピンチです。
JILVA-170をはじめ納品が遅れて多大なご迷惑をおかけしています。 謹んでお詫び申し上げます。

幸い回復傾向にあり、望遠鏡メーカーOBの人にも手伝っていただいて、8月の第一週までには、全てのJILVA-170は完納させます。 ユニテック社のSWAT-350も逐次納品します。
お客様からは「納品はいつでも良い健康が大切」とのメールや励ましのお電話をたくさん頂戴して、涙が出るほど嬉しく思いましたが、アメリカ日食やこの夏の新月にお使いの人も多いので、甘えるわけにも参りません。
そんなこともあり、7月28日から新潟県胎内市で行なわれる『胎内星まつり』の(株)輝星・SB工房の出展と、8月21日の『アメリカ日食』の遠征は断念いたしました。
お盆の頃までには必ずゾンビのように復活して、生産や新製品の開発に邁進いたします。


●日食観察について、星爺なりの見解です
皆既日食には7回しか遠征したことはありませんが、幸い すべて快青下で観察できました。 他のご見解もあろうかと存じますが、星爺なりの見解を掲載します。 年初に書き留めておいた原稿があったので、以下に素の原稿のママ掲載します(今は文面を打つのも片眼で苦労する状態です)。

●皆既の開始まで目隠しのお勧め
肉眼はとりあえずの暗順応には約5分。 完全な暗順応は30分かかると言われます。 暗い映画館などに入ったときに誰しも経験しますね。 星空を見るときはもちろんですね。
アメリカ日食の皆既継続時間は2分ちょっとです。 これでは眼が暗順応して外側の淡いコロナや周辺の惑星や明るい恒星が見え始める前に皆既が終了してしまいます。 そこで、皆既の開始まで「目隠しをすることをお勧めします。
 50年ほど前くらいまでは天文学者も皆既日食を観測することがあり、目隠しをして待機した思い出話をお聞きしたこともあります。

●皆既日食の写真は誰でも撮れて誰にも撮れない?

 太陽の近くの内部コロナは非常に明るく(満月よりも明るい)、外部コロナは薄暗い空に溶け込むほど淡いものです。 ISO感度100で絞りF8では、太陽にごく近い内部コロナはだいたい1/2000秒露出、外部コロナは2秒露出が適正で、全体像の適正露出はあり得ません。 つまり、どんな露出で撮影しても写真の雰囲気が変わるだけで失敗は皆無です。 言い方を変えると どんな露出で撮影しても失敗です。

●内部コロナ~外部コロナまで適正露出にする工夫
皆既日食の写真の逆版(ネガ)のような感じで外側に行くにしたがって淡くなるフィルターをカメラボディのフィルム直前に入れるのが、ニューカーク博士が1960年代に発明した「ニューカークフィルター」です。 内部~外部コロナまで適正露出で撮るには広いダイナミックレンジが必要なので、濃くて厚いガラス製のNDフィルターを光学旋盤で削って作りました。 アメリカ日食用に昭和機械製作所が同様なフィルターを開発中との情報もあります。
1980年2月16日のインドでの皆既日食では、塩田和生さんがダイナミックレンジの広い特殊な銀塩感材でニューカークフィルターを作って、素晴らしい写真を撮影されました。  星爺は製作法の原稿を編集した覚えがあります。 塩田さんは最近は画像処理で日本一(世界一?)の日食写真を撮り続けています。
1991年7月11日のハワイ---メキシコ皆既日食では、当時Sky&Telescope誌の編集者だったデニス・チコさんが、フィルム直前で風車のような形状の小さなプロペラを回して、ニューカークフィルターと同様な効果を狙いました。 星爺は現地で装置を見せていただいた覚えがあります。

画像処理が簡単に行えるようになった昨今、内部~外部コロナまで適正露出の写真を得るには、1/2000~2秒程度の露出で多数枚撮影して適正露出部を画像処理で合成します。 その上でコロナの流線を強調する様々なテクニックを用います。 かなり手間もかかるので、 いっそ「記念写真程度」の撮影に甘んじて、大自然のスペクタクルを眼視で楽しんだほうが得策とも言えますね。
※勇気をもって乱暴に適正露出を定めるなら、1/125秒内外が無難なところでしょうか?

1995年のタイでの皆既日食です。 口径8cm 焦点距離640mmの望遠鏡の直焦点撮影。 ラチチュードの広いISO100のカラーネガフィルムにて1/30秒で撮影し、プリント時に内部コロナを焼き込み外部コロナは覆い焼きをして、少しでも全体が適正露出に近くなるようにしています。 もちろん、それでも適正露出にはほど遠いです。 コロナはもっともっと外側まで広がっています。 左の縁に見えるピンクのプロミネンスは、露出オーバーのコロナに埋もれています。 (画像をクリックすると大きくなります)。

1994年の南米ボリビアでの皆既日食です。 口径80mm 焦点距離640mm望遠鏡。 1回シャッターを押すと8秒~1/2000秒を順番に撮影し続けるコシナの一眼レフ改造カメラボディ使用。 カラーネガフィルムの画像をスキャナーで読み取って、内部~外部コロナの適正露出部を重ね、全体的に適正露出の画像を得てから輪帯的なアンシャープマスキング処理を施して、コロナの流線を強調しています。 右側の写真は4秒露出で写った月面の地球照も上乗せしてあります。
コロナを望遠鏡で見ると、絹糸を放射状に流したような細い細い乳白色の流線が見事です。 上の写真のような粗い流線ではありません。 当時の技術背景と星爺の下手な画像処理では これが限度でした。
デジタルカメラは当時のフィルムよりも圧倒的にシャープに写るので、アメリカ日食では画像処理を工夫してもっともっと詳細なコロナの流線を現すことができると思います。 ただしカラーネガフィルムがオーバー側に5絞り程度の広いラチチュードがあるのに対し、デジカメのラチチュードはかなり狭いので、内部~外部コロナまで細かく多数枚を合成する必要があると思います。

左はタイでの皆既日食。 1/2000秒露出でプロミネンスを狙いました。 プロミネンスはもっと超望遠で拡大して撮影したいですね。 今夏は太陽活動が活発ではないので、大きなプロミネンスが見えるかどうかはわかりません。 星爺が『天文ガイド』誌でインストラクターをしているときは、プロミネンスアイピースを持参して、直前のプロミネンスの様子をツアー参加者に確認してもらいました。 右は皆既終了時のダイヤモンドリングです。

●連続オートブラケット装置
カメラによっては「オートブラケット」と称する、設定したシャッター速度の前後数枚を露出を変えて写す機能があります。 例えばキヤノンEOS6Dなら設定した露出の前後3枚ずつを任意の露出差で撮影できるので、適正露出のないコロナの1枚ごとに露出を変えた撮影に便利です。 本当は前述のコシナのカメラのように全速のシャッターを切り続けてくれると更に重宝なのですが…。
オートブラケットは1回しか撮影できないので、1回スイッチを押せば連続してオートブラケットで撮影し続ける装置を作りました。 SB工房での頒布を計画していたのですが体調不良で叶わないので、今回は遠征する身内のスタッフや関係者の皆さんが使用することになりました。

●溶接面用の色ガラスフィルター
部分日食を見るために濃い色の下敷きやフィルムを使うのはヤメましょう。  眼では減光しているように見えても危険な紫外線や赤外線がノーガードで透過している場合があります。  望遠鏡メーカーなどから供給されている「日食グラス」は多くが ミラーグラスで、短波長の紫外線から長波長の赤外線(熱線)までまんべんなくガードする安全なものと思われます。
星爺は以前から溶接作業用のお面に使う「色ガラス」を使っています。 これはドイツのDIN規格や日本のJIS規格に則った極めて安全な減光フィルターで、紫外線と赤外線もガードしています( 最も透過する色の緑色に見えます。 レイバンのサングラスと同じですね)。 大きさは50mm×100mm。 平面精度は不明ですが、以前に天文学者の先生が「小さくな円形に切って太陽観測用のアイピースに入れる」とおっしゃっていたので、たぶん撮影に用いても問題ないと思われます。
「溶接、遮光ガラス」などで検索してみてください。  色の濃さは薄いもの(ガス溶接用)から濃いもの(電気溶接用)まで数種類あり、肉眼で見るにはDIN規格なら最も濃い目の12番か13番が適すると思います(晴れ間に太陽を見て10番を校正しました。眼鏡のサングラスとの併用は10番が良いです)。 安価な物は1枚200円以下です。 偏光フィルターを2枚用いた調光式もあります。

●その他の情報
写真に撮るとダイヤモンドリングは皆既の始まりも終わりも似たように写りますが、皆既の始まりのは本当はダイヤモンドリングとは言わないらしいです。 皆既の終わりのダイヤモンドリングは、暗順応した眼にピカーッ! と強烈に輝いて見えて感激します。 皆既の始まりのは漫然と暗くなって、太陽の1部が未だ月に隠れていない…といった感じです。 これはこれでスーッと現れるコロナに感激しますが…。

皆既日食撮影の望遠鏡や望遠レンズは、焦点距離500mm~700mmくらいが適すると言われます。 画角的にはまったくその通りです。 しかし、コロナの流線の詳細を撮影するためには1000mm以上が有効です。 外部コロナは狙わないので、適正露出に悩まされることも少なくなります。

一般写真派の人は望遠レンズやズームレンズにテレコンを用いる人が多いです。 しかし、皆既日食は強烈な「逆光」の被写体なので、 レンズ枚数の多い光学系はゴーストが心配です。 とくにダイヤモンドリングはゴーストが出やすいです。 カメラレンズでは長めの露出は諦めて、1/60秒以上の手持ちで撮影するのも妙案です。 自ずと太陽の位置が安定しないので、ゴーストの出ない構図で撮影できることがあります。 満月ころの明るい月を撮影するとゴーストの傾向がわかることもあります。
※本気で撮るにはカメラレンズ(とくにズーム)は避けるべきと思いますが、どうでしょうかね?

天体望遠鏡は単純なレンズなのでゴーストが出にくく、シャープで流線が鮮明に写るので、過去に見事な写真を撮った人達は、ほとんど天体望遠鏡を用いています。
カメラレンズと比較した欠点は、 焦点距離に反比例して像面の凹弯曲が強くなるので、小型の天体望遠鏡ほど周辺の外部コロナがピンボケになりやすいことです。 小型の望遠鏡はド真ん中でピントを合せないでやや端で合せたほうが良いです。 像面平坦化レンズ(フラットナー)を併用すべきかもしれませんがゴーストが心配です。
また、天体望遠鏡は望遠レンズのようなテレタイプの光学系ではないので、入射光が平行光線に近くなるため撮像素子上のゴミが写りやすいものです。 撮影前に撮像素子の清掃をしましょう。 カメラボディ内フィルターはゴミの写る元になるので避けたほうが無難です。

天体望遠鏡や望遠レンズは赤道儀に載せると快適ですが、500mm程度までの望遠で1/8秒露出以上なら日周運動で流れて写ることはありませんから、カメラ三脚に固定するだけも良いですね。
広角レンズによる固定カメラの連続撮影は赤道儀の追尾は無用です。 が、太陽の動いてゆく方向をシミュレートして構図を決めるためには、赤道儀に載せて回してみるとわかりやすいです。

皆既日食の観察には双眼鏡が必携です。 天体望遠鏡で100倍以上の倍率で見るのもお勧めです。 内部コロナがシューッと音を立てて吹き出している感じに見え、太陽に近いコロナは渦を巻くように乱れて見えることもあります。 大感激すること請け合いです。

皆既日食の前後は晴れれば当然カンカン照りなので、ノートパソコンの画面が非常に見にくくなります。 詳細なディスプレイほど見にくいです。 ディスプレイのまわりを囲ったり黒い布をかぶるなど、事前にいろいろ試してみてください。
当日はどこも快晴に恵まれることを期待しています。


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●板垣公一さんがFRC-300を手放されます2017/01/28 17:29

●板垣公一さんがご愛用の準RCのFRC-300望遠鏡を手放されます。
超新星発見家として有名な板垣公一さんが、機種変更のため愛用のタカハシFRC-300型 30cm F7.8 焦点距離2348mm の準リッチー・クレチアン式反射望遠鏡を手放されます。
「有効に使ってくださる人にお譲りしたい」ということで、このブログでのご案内を頼まれました。
イメージサークルがφ90もあり像面が平坦で、本来は中判カメラでも隅々まで鋭い星像を結ぶ写真撮影用の光学系です。周辺光量も充分でFも比較的明るく、デジタル一眼レフや冷却CCD(CMOS)には、最適の星野撮影用望遠鏡と思います。

FRC-300鏡筒と光路図。 高橋製作所様のご厚意により写真と図を転載させていただいています。

FRC-300は、昔、天ガで「徹底的に良い望遠鏡を作ろう」と、機材頒布企画の一環としてタカハシ製作所と相談して完成した懐かしい望遠鏡です。
決して性能が不満で手放されるのではなく、板垣さんがご使用の冷却CCDカメラの画素が25μmと大きいため、特性の適したもっともっと長い焦点距離が必要になったため惜譲されます。ちなみに、もっと長い焦点距離の望遠鏡とは Celestron C14型シュミット・カセグレンのことです。
板垣スペシャルとも言えるこのFRC-300望遠鏡は、板垣さんの地元山形でタカハシの赤道儀に搭載して使われ始め、現在は北関東の観測所に設置されていて、山形からリモートコントロールしています。
写真の南側にある片持ちフォーク式赤道儀に搭載されたのがFRC-300で北側がC14です。
南側がFRC-300。北関東のスライディングルーフにあり、山形からリモートコントロールします。
観測所や望遠鏡の様子は複数のモニターカメラ(モノクロ)で確認。この画像はモニターカメラのもの。
下の写真は山形の制御センター。 観測所は日本各地にあり 6台のパソコンを使用されています。

90万円でお譲りするとのことで、お問合せは「SB工房」の「ご購入とお問合せ」からお願いします。
↓SB工房のホームページ(株式会社輝星)
http://www.ne.jp/asahi/sky/bird/index.html

◆FRC-300とは?
RC(リッチー・クレチアン)式反射望遠鏡は、カセグレン式に広義で使われる名称です。 純粋なRCの光学設計、すなわち係数に応じた双曲面の主鏡/副鏡を使った純RCの他に、変形タイプもいろいろあり、変形タイプは「RC」とも「準RC」とも称されることがあります。 放物面主鏡と双曲面副鏡の純カセグレン式も「RC」と呼ばれることがあります。 観測目的や写真撮影の被写体によっては、生粋の純RCが必ずしも優れているわけではありません。
ちなみにタカハシBRC望遠鏡は口径20cmでF5と明るい純RCです。FRC-300は準RCで、フラットフィールド・リッチー・クレチアンの略号のFRCです。 以下の説明がされています。
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像面を完全に平坦化するフラットナーレンズに合わせて、主鏡/副鏡の非球面率を決定しています。このような準リッチークレチアンでは、純粋な(オリジナル)リッチークレチアンよりも非球面率が強く、より高度な設計となっています。したがって純リッチークレチアン+フラットナーレンズよりも中心球面収差、周辺のコマ、非点、像面湾曲全てに収差が小さくでき、FRC-300では、イメージサークルφ90mmの隅にまで10μm以下というBRC-250と同等の完璧な星像が得られます。また、合焦機構はBRCと同じ方式で確実に固定できる温度補正機構(±5°C)も内蔵しております。
オプションで冷却CCD用のF5.9となるレデューサーも用意しており、これも冷却CCD用としては十分な10~20μmの星像が得られます。
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◆主要データ
FRC式アストロカメラ
有効径=φ300mm
副鏡径=φ125mm
合成焦点距離=2348mm
合成口径比=1:7.8
イメージサークル=φ90mm
メタルバックフォーカス=106.2mm
鏡筒径=φ324mm
鏡筒全長=1030mm(筒先からヘリコイド面まで)
重量=約30kg
※レデューサーはありません。焦点距離を伸ばすオリジナルのエクステンダーは差し上げますとの由。
↓参考URL(高橋製作所)
http://www.takahashijapan.com/ct-products/products/FRC-300.html

●本年もよろしくお願い申し上げます2017/01/02 09:00


年末のオーストラリア遠征の直前に2人めの孫が生まれました。上の大マゼラン雲が2歳の長女、下の小マゼラン雲が次男のように見えました。祖父としての責任をひしひしと感じます。
キヤノンEOS KissX5 ISO1600 シグマ17mm~50mm F2.8~F4ズーム 17mm F4で撮影。
オルゴール赤道儀(←クリック)MusicBox EQⅡにて露出各2分を3枚コンポジット合成。
超広角~標準の星景写真はオルゴール赤道儀で充分です。電動のポータブル赤道儀やドイツ式赤道儀を使うのも面倒なので、星景写真にはもっぱらオルゴールを使っています。

●JILVA-170の出荷が遅れて大変申し訳ありません
JILVA-170やユニテック社のSWAT-300/350は、全品のPモーション・テストをして合格品だけ出荷しています。合格するのは全体の70%。念のために公称の精度よりも厳しく測定しています。
しかしながら、一晩に数台までのテストしかできず、昨年に引き続きこれほど悪天候になるとは予想していなかったため出荷が遅れに遅れて皆様にご迷惑をおかけしています。本当に申し訳ありません。最近は天候が良くなったので、逐次テストをして出荷をしております。ご注文をいただいたお客様には進捗を個別にメールでお知らせしています。今少しお待ち下さい。

JILVA-170BT38三脚(←クリック)の格安販売期間を延長します
今年はJILVA-170を常に在庫するようにいたします。3月までは今までどおりパーツの余ったバーゲン品や試作品の受注生産といたし、格安販売の期間を延長しますのでお問合せください。

【格安販売の価格】
・JILVA-170輸出用バーゲン品----90,800円(税別)
・JILVA-170日本仕様試作品-----108,000円(税別)
・BT38-1三脚(直脚)------------18,200円(税別)
・BT38-2三脚(2本つなぎ)--------21,000円(税別)
(株)輝星 (←クリック)のホームページの 「ご購入とお問合せ」 からお問合せください。

JILVA-170の日本仕様試作品とは、大きな望遠鏡を搭載されるユーザー様も多いことから、その対策として15kg程度の搭載まで耐える、SWAT-350(ユニテックでOEM)の頑丈なフローティングウォームホイール式のターンテーブルに換装したモデルです。
専用のBT38三脚は三脚の欠点である「開く」機構を省略し回してたたむようにしたため、小型軽量なのに驚くほどの強度があります。普通のドイツ式赤道儀を搭載されるお客様も多いです。
左がSWAT-350のターンテーブルに換装した「日本仕様試作品」、右が「輸出用バーゲン品」です。

BT38三脚に左はSWAT-350を搭載。右はふつうのドイツ式赤道儀を搭載(ユーザー様の例)

●ポータブル赤道儀(ポタ赤)のコンセプトはノーガイド撮影
ポタ赤の誕生と経緯は過去のブログ「ポータブル赤道儀という用語」に書かせていただきました。
星爺は12年前まで天文雑誌の編集を30年ほどやっていて、レンズテストの記事などで大量の星野写真を撮影していました。撮影失敗は許されないので、本来は据付用の30~50キロもある赤道儀に手を加えて高精度化したり、極軸のみにした架台を何台か運搬して使っていました。もちろん400mm望遠レンズ程度まではシャッターを切って「ほっぽりっぱなし」するノーガイド(ノータッチガイド)撮影です。書籍を執筆される著者の先生方も、大型の赤道儀にカメラを搭載してノーガイド撮影をしていました。

「エッ? 小型の赤道儀にカメラを搭載してガイド撮影するのではないの?」 と思う人もいるかもしれませんが、そのような撮影法は元々は天文雑誌の対象読者である小学校高学年から中学生用に考えられたもので、大量に撮影する仕事に使える手法ではありません。雪原に穴を掘ってその中でガイド撮影をしている表紙の写真が大ウケしましたが、天文少年に向けた夢のある演出ということですね。
しかし、大きく重い赤道儀の運搬は大変なので、同様な追尾精度を保ったまま運搬しやすいポータブル赤道儀に仕立てたのが大きめなJILVA-170で、φ162のウォームホイールを使っています。135mm望遠以下用にはデジタル一眼レフボディと同程度の大きさのPanHead EQをご用意しています。
追尾精度の命であるウオームギヤセットをギヤメーカーに依頼すると、JILVA-170と同じくらいの大きさは10万円以上かかります。それでも満足な精度のギヤはなかなか作れません。そこでウオームギヤは特殊な製法で自製して安価に高精度を達成しました。

今回ご紹介するユーザーの皆さんはノーガイドで撮影されています。もちろん弊社は世界で初めてポタ赤にオートガイダー端子を設けたくらいで、ほっぽりっぱなしノーガイドばかり推奨するものではありませんが、ノーガイドでもかなり使える追尾精度を有することはポタ赤の必須条件と考えています。

◆ぎょしゃ座中央の散光星雲 IC405とIC410◆ JILVA-170で撮影:加藤 利仁さん
ペンタックスSDUF天体望遠鏡(口径100mm  焦点距離400mm F4) キヤノンEOSKissX5カメラ(天体改造) ISO3200 露出4分と2分 ノーガイドで22枚撮影してコンポジト合成。

フィルム時代の中判カメラ用のこのレンズは、色収差が激しくて強調処理をすると明るい星の周囲にリングができます。
しかし微光星はずいぶんシャープなので正確な追尾がよくわかります。 ノーガイドでも400mm望遠が撮影できるのはとっても楽ですよね?
JILVA-170にビクセンGP赤道儀の赤緯軸を付けてお使いです。上の写真に搭載しているのは作例写真のペンタックスSDUF 天体望遠鏡ではなくカメラレンズの300mm F4 です。


◆オリオン座の馬の首暗黒星雲付近◆ JILVA-170で撮影:大野 浩之さん
BORG 77ED2 天体望遠鏡 0.7×レデューサ使用(口径77mm 焦点距離357mm F4.6) フジX-T1カメラ(ノーマル) ISO感度不明  ノーガイドで2分露出を4枚コンポジット合成。
望遠レンズよりもシャープな大きめのED天体望遠鏡をお使いです。全面に見られる赤いモヤモヤはカブリではなく淡い分子雲です。このカメラはノーマルでも赤いHα星雲がよく写るようです。
JILVA-170にベンチバーを取り付け、タカハシの赤緯軸パーツを取り付けてドイツ式にしています。


◆ケフェウス座のガーネット・スターとIC1396◆ PanHead EQ PH-1sで撮影:桐山 伸一さん
BORG 36ED 天体望遠鏡 1.1×フラットナー(口径36mm 焦点距離220mm F6.2) キヤノンEOSM3カメラ(天体改造) ISO3200 ノーガイドで露出6分を8枚コンポジット合成。
135mm望遠レンズをノーガイドできるというPanHead EQの公称値よりも長い焦点距離の望遠鏡での撮影ですが、比較的長い6分露出でも追尾エラーが見えないので、製作者としてはヒヤヒヤした後でホッとしています。この星雲は非常に淡いのでかなり難物ですが素晴らしい描写ですね。
PanHead EQ PH-1“s”は、軽量化に留意して単3形乾電池2本(またはUSB電源)で動くモデルです。アルカスイス互換プレートで大きな鏡筒を載せておられますが、ちょっと荷が重い感じもします。今後は左側に見える小型のオートガイダーを使ってさらに長焦点長時間露出を目指すそうです。
PanHead EQでもオートガイドさえすれば1000mmクラスの望遠鏡も使用可能なので、ご要望にお応えして頑丈なターンテーブルに換装したPanHead EQも計画しています。

◆南十字とコールサック付近◆ PanHead EQ PH-1で撮影:村松 俊和さん
70mm F2.8 カメラレンズ 絞りF3.5 キヤノン6Dカメラ(天体改造SEO-SP4) ISO1600 ノーガイド露出3分を12枚コンポジット合成。
南半球に遠征して撮影した南十字星付近の星野です。光害のない夜空での撮影はとくにバックグランドが美しいですね。 虫の這った跡のように見える暗黒星雲の筋が見事です。

●2017年の生産計画
◆PanHead EQ ポータブル赤道儀 PanHead EQ (←クリック) PH-1は隠れた人気のある超小型のポータブル赤道儀です。雲台の感覚で使えるのでパンヘッド EQ(Equatoria)です。 ベテランの人のご購入が多く、上の写真のようにターンテーブルにアルカスイス互換クランプを搭載したモデルや、極軸を強化したモデルなど特注にお応えします。今年はそれらの特注品を標準品として機種を増やします。

◆JILVA-170ポータブル赤道儀 JILVA-170は、Pモーションテストの能率を向上させて、たくさん作り置きして常に在庫を持っておくようにします。

◆オーソドックスなドイツ式赤道儀 JILVA-170のウオームギヤの調子が良いので、同じパーツを使って圧倒的に強度を高めた普通のドイツ式赤道儀を発表する予定です。自動導入対応やそうでないシンプルなモデルも作ります。

◆オートガイダーセットと電子極望 もうすぐポータブル赤道儀に適したオートガイダーセットや電子極望のPoleMasterも取扱を開始します。

◆JILVA-300 ポータブル赤道儀 ウォームホイールφ300で歯数540歯のJILVA-300を発表する予定です。ウォームホイールの自社生産の研究はJILVA-300用で始めたのですが、やっとお披露目できます(下はテスト用の極軸)。

●汎用自動導入モータードライブE-ZEUSⅡ
年末はJILVA-170のPモーションテストで多忙だったため、ご自分で装着されるユーザー様に自動導入装置のE-ZEUSⅡ(←クリック)を何台か出荷しました。皆さんうまく装着されて快調に動いています。
左はタカハシJ型赤道儀に取付けた標準型寒冷地仕様のE-ZEUSⅡ。右は昭和機械製作所 SHOWA25E 赤道儀に取付けた標準型寒冷地仕様のE-ZEUSⅡ。

左は宇治天体精機スカイマックスに取付けたドライバが特別仕様のE-ZEUSⅡ。右は昭和機械製作所SHOWA20E 赤道儀に元々内蔵されていたドライバ回路を流用した標準型E-ZEUSⅡ。

左は宇治天体精機スカイマックスに取付けた標準型E-ZEUSⅡ。右はミカゲ光器の大きな360N型赤道儀に大型用E-ZEUSⅡを取付けるために整備をしているところ。

※株式会社輝星の運営する「SB工房」はこちらです。

●赤道儀の追尾精度2016/04/06 00:17

●赤道儀の回転の仕組みと必要な精度
写真は20cm赤道儀用のウォームホイールとウォームネジ、それと極軸を支えるベアリングです。その下の図はピリオディックモーション(以下PM)の原因を示した図です(以前の記事の再掲載)。
このように赤道儀はウォームホイールを、ウォームネジ(ウォームはWarmでイモムシの意味)で1日約1回転の超低速かつ超高精度で日周運動で動いて行く星を追尾しているわけですね。

赤道儀に使用されるウォームホイールとウォームネジは、一般品の高速でガンガン回すための減速ギヤとは似て非なる物で、精度が一桁も優秀な専用品ということを念頭に置いてください。
30~40年前の 「赤道儀を購入する人の90%は星野写真撮影に使う」 と言われた時代。星野写真撮影に使える追尾精度がない赤道儀の量産メーカーは姿を消したように思います。それが理由で手を引いたメーカーばかりではないでしょうが、高精度のビクセンさんとタカハシさんだけ残ったのかな?
両社にギヤの精度や製作法をお聞きすると、それはもう通常の機械加工のレベルではなく、夢の様な匠の技や精密加工機械を結集して素晴らしい高精度を達成していることに驚きます。
ビクセンさんは独自の装置でウォームネジの偏芯をテストして合格品を極軸に使っています。それを星爺も真似してウォームネジを数百本作り偏芯テストをして、良い物だけを合格品として極軸に用いるようにしています。※不合格品はこれから作る赤緯軸や微動雲台などに用います。


●追尾精度=追尾の進み遅れの幅=ピリオディックモーション
赤道儀のモーターは通常は水晶発振で動くので、クォーツ時計のように正確に回転します。しかし、モーターだけ正確に回っていても、ギヤなどの精度不足で追尾速度は「速くなったり遅くなったり」を繰り返します。望遠鏡の視界の星(撮影中の星)が、ゆっくり西に動いて行ったら いったん止まった感じになって、今度は東に動いて行って再び西に動く振る舞いを繰り返すわけですね。
この周期的な動きをPM(Periodic Motion)と称し、 PE(Periodic Error)とか、たんに「追尾精度」とも言われます。PMのデータは東西(日周運動方向)の振れ幅の角度で±○″と示します。原理的にふつうはウォームネジ1回転の周期で、ほとんど同じPMの振る舞いが繰り返されます。
PMの振れ幅が星を撮影するレンズの 「最小星像±○″」 より大きいと、そのレンズを追尾できる精度は無いわけですから、PMは星野写真撮影に使う赤道儀のもっとも重要な性能です。

PMの原因には主に上の図と下記に示した4種類があります。各々がウォームネジ1回転の周期を持ち、これらが赤道儀に組み上げた際に全部重なってPMとなって現れます。
信じられないかもしれませんが、長い望遠レンズの星野写真撮影に使用できる追尾精度の赤道儀には、各々の原因になる加工精度に計算上は1/1000mm以下の、一般的な機械加工精度をはるかに超越したものすごい精度が必要です。

①ウォームネジのピッチ誤差(乱れ)によるヨロメキ運動
ウォームネジのピッチが乱れていると追尾速度の進み遅れが生じます。たとえば小型赤道儀の直径70mm程度で歯数144枚のウォームホイールでは、ウォームネジに1/100mmのヨロメキがあると1回転10分の周期で±30″程度のPMとなって現れます。50mm標準レンズの追尾許容誤差は±40″ほどなので追尾可能ですが、長い望遠レンズを追尾できる赤道儀のウォームネジは突拍子もない高精度なのです。

②ウォームネジ軸受けの精度によるスラスト方向のブレ
ウォームネジを支える軸受け部が図の左右にブレると、ネジのピッチ誤差と同様にPMとなって現れます。ピッチ誤差や軸受けの誤差は、慣らし運転(エージング)をしてもほとんど良くなりません。

③ウォームネジの芯出し誤差による1回転毎のトルク変動
これがもっとも強烈なPMの原因なことが多いです。非常に繊細なウォームネジに芯出し誤差(偏芯)が僅かでもあると、ウォームホイールへの押し付けは強くなったり弱くなったりを繰り返します。
強く押し付けられる部分では回転が渋くなるため、モーターは定速回転していてもウォームネジに達するまでのギヤヘッド他のたくさんのギヤの隙間などが縮んでトルクを吸収して回転が遅くなります。弱く押し付けられる部分にさしかかると吸収が反発して速くなって1回転毎のPMが生じます。
トルクの吸収と反発は主にギヤヘッド部で生じますが、モーターの取付部のたわみや伝達ギヤ部でも生じます。ベルト駆動は反対側のベルトとの張力差が大きなPMとなって現れます。

④ウォームネジに付けたスパーギヤの偏芯による速度変動
ウォームネジに付けたスパーギヤが偏心していると、1回転毎にスパーギヤの直径がほんの少しですが大きくなったり小さくなったりを繰り返すので、やはりウォームネジ1回転毎のPMが生じます。
また、スパーギヤ以外のピニオンギヤなどが偏心していると、ウォームネジ1回転のPMとは別に そのギヤの周期のPMが生じます。ギヤ同士の噛合せがキツ過ぎるとトルク変動も発生します。

参考=※バックラッシュを嫌ってウォームネジの押し付けを強くする人がいますが、強くし過ぎるとPMを増長させてしまいます。極軸のウォームネジは優しく緩めに押し付けるべきです。
PMの原因はモーターからウォームネジ/ウォームホイールの摺動部間にあるので、ウォームホイールの大きさに比例してPMは少なくなり  「ウォームホイールの大きさは七難隠す!」 のです。

このようにPMは主に4種類の原因が重なるのですから、偶然に原因同士が相殺されるように赤道儀が組立てられれば、PMは各々の原因の加工精度よりずっと 良くなる場合があります。逆に原因が相乗されて悪くなってしまう場合もあります。なので、PMは設計段階やパーツの加工精度から類推することは難しく、どうしてもアタリ/ハズレが出てしまいます。赤道儀に組立ててからPMの測定をしてみないと追尾精度はわかりません。「追尾精度は赤道儀に聞いてくれ!」って感じですね。
時間をかけて組立てとPMテストを繰り返し、各々の原因をうまく相殺する組立てをすれば、かなり良い精度に追い込むことは可能です。メーカーさんはそれをやっているのかな??
※このようなことから、調子の良い赤道儀は調整やオーバーホールはしない方が無難です。

昔はあり得ないほどの高精度のPMを標榜するメーカーもありましたが、最近はカタログにPMを明記する大手量産メーカーはほとんどなくなりました。根拠の無いデータを出さないのは良心的と言えますが、PMを明記しないのは星野写真撮影の機材としては、いかがなものかとも思いますけどねぇ。

●PMを撮影してみよう!
星野写真を撮影する赤道儀のユーザーさんは、PMを撮影/測定してどれくらいのレンズをガイディング無しのノータッチで使用できるかを確認してみましょう! その結果、あまりにも追尾精度が悪かったらクレームの証拠写真にもなりますし、あり得ない高精度を喧伝するメーカーが出て来て初心者が翻弄されないようにするためにも、天文ファンはPMの測定を常識にするべきと思います。
今回は難しい話は一切省略します。 PMを撮影するレンズでそのまま追尾撮影をしたら、星がちゃんと点像に写るかどうかの簡単な確認だけしてみましょう。 PMの写真が撮れたらぜひ見せてください。ユーザーがPMの写真をたくさん発表すれば、赤道儀の精度向上に寄与すると思います。

上の図はPMの様子をグラフにしたものです。赤道儀の極軸をわざと東西のどちらかにズラして南の天の赤道付近の星空を10分程度露出をすると、星は赤緯方向(図の上下方向)に流れて、このグラフと同じような星の軌跡が写ります。下の上のPMの写真はそんな軌跡を描いていますね。
PMを撮影するレンズは、できるだけ望遠が望ましいです(弊社では1200mmで撮影しています)。 でも、今回は標準レンズでもズームレンズでも望遠鏡でも何でも構いませんので、とにかくPM撮影を体験してみましょう。光害も月明かりも関係ありません。北極星が見えなくてもなんとかなるでしょう。
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・露出時間が長いのでカメラの感度はISO100~ISO200にする。
・絞りは光害に応じてF5.6~F11くらいにする。
・極軸を東西のどちらかに2~3°ズラして赤道儀を設置する。
・星の動きの速い真南の天の赤道を付近を写す。地上高度なら55°くらいのところ。
・夏や冬の天の川の中なら、適当にどこを撮影しても星がたくさん写る。
・今の季節は真南に星が少ないので、他の場所の明るい星を写してもまぁOK。
 ですが、星の動きの速い赤道を離れると測定結果がどんどん甘くなります。
・露出時間は10分程度。光害で露出オーバーならもっと短くする。
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極軸の東西のズラシが大きすぎると、星は赤緯方向にうんと流れて写るので、適宜に調整してみてください。極軸の東西のズレに加えて上下のズレがあると、それが追尾速度に反映されて下の写真の様に星が正しく上下(赤緯方向)に流ず斜めに流れて写りますが、これもまぁOKとしましょう。
◆ウォームホイール歯数144枚の赤道儀はPM(ウォームネジ1回転)の1周期は約10分です。歯数が180枚なら8分、288枚なら5分、360枚なら4分。 1周期分以上の露出でPMを撮影したいです。

300mm望遠で写した普及品のドイツ式赤道儀のPモーション。10分露出で歯数144枚のウォームホイールなので、ちょうどウォームネジ1回転分が写っている。300mm望遠は追尾できない精度であることが一目瞭然。85mm程度ならガイディング無しのノータッチ撮影ができそう。PMは±35″程度。

300mm望遠で写したポタ赤 SWAT-200のPモーション。完全に直線ではなく少し乱れているので、200mm望遠ならば完璧にノータッチ撮影できそう。測定するとPMは±10″以下で公称値のとおり。

このようにPMを撮影してみると、所有する赤道儀の追尾精度の悪さにガッカリする人の方が多いと思います。 安価なポタ赤は標準レンズでもPMが写るほど精度の悪い場合もあると思います。
でもまぁ、上下の星の流れが完全に直線に写らなくても、星の軌跡の太さの2倍程度のPMなら明るい星は滲んで大きく写り、うんと暗い星は流れて淡くなって写らないので、案外使えてしまうものですよ。 もちろん北の方向を写す場合は、日周運動の動きが少ないのでPMの影響はだいぶ減ります。

実際の星野写真の撮影では、ISO1600ならば光害の少ない星空でF2.8で適正露出は1分くらいでF4では2分くらいです。したがって、露出中にうまい具合に上のPMのグラフの星の移動方向が反転する部分に当たれば、追尾精度の良くない赤道儀に望遠レンズを載せても星は点像に写ることがあります。短めの露出で何コマも撮影すると、流れたカットと流れないカットが得られます。なので、追尾の成功率が50%以上あるなら 「それで充分に実用になる!」 という考え方はアリですよね? 
ポータブル赤道儀と露出時間が短くて済む高感度なデジカメの登場で、星野写真はずいぶん気楽なものになりましたね。 感材にお金がかからないことも大きな利点です。

●最後に諸々の補足です
ウォームホイールは高精度なギヤに見えても、実際はそれほど精度は必要ありません。しかし、極軸を取付ける際にウォームホイールが偏心して、1日1回転の間にウォームネジに強く押し付けられる部分と弱く押し付けられる部分が生じ、強く押し付けられる部分でPMを増長することがあります。
そこで弊社では、ウォームホイールの母形を極軸に取付けて赤道儀のダミーに組み込み、実機さながらに極軸を回して歯切りとエージングをするので、ウォームホイールの偏芯はほぼゼロです。

前回の拙稿http://tentai.asablo.jp/blog/2016/03/27/8058123)の補足。
「追尾精度の良くない赤道儀にオートガイダーを常用するのもアリ」と書きましたが、赤道儀の追尾精度があまりにも悪いとオートガイダーが働きにくかったり、ガイド星を雲が通過したりするとガイド星を見失うなどのトラブルが出てしまいます。 やはり赤道儀は追尾精度が命です。

オートガイダーを使う場合は極軸設置もある程度は正確でないと、露出時間が長い場合はガイド星を中心に画面が回転して写ってしまいます。広角でも望遠でも回転角は同じなので厄介です。

三脚などの強度(これが見過ごされていることが多い)が完璧で、追尾精度が完璧で、極軸設置が完璧でも、大気差による天球の歪で長い望遠レンスの追尾が完璧にできるわけではありません。オートガイダーの適宜な投入は面倒ではありますが とても有効な手段です。
 
北極星は歳差で動くので極望のスケールパターンには、2000年、2010年、2015年などの北極星の導入位置のマークが印されていることが多いです。では、古い極望は2016年以降の北極星の位置マークが無いからダメかというと、過去の位置マークが直線的に印されている場合は、その延長上にだいたいの見当で歳差の分だけズラせば、実用上は問題ないと思うのですが、いかがでしょうか?
北極星以外の星も使うスケールパターンの場合も、プラネタリウムソフトの「視位置」で各星の位置を検証してスケールパターンに印すか、だいたいの見当でズラして使うことは充分可能と思います。