●眼視用長焦点で星野撮影2018/04/09 17:20

◆最初に最近の健康状態
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左眼は調子が悪くてメールなどの文字列を見ると嘔吐して、頂戴するメールになかなか返信できず大変失礼をしております。 順次返信いたしていますが、 深く お詫び申し上げます。
両足の激痛は弱まって歩けます。が、右肩が痛むようになって荷物を持てません。 とくに特注品の納品が滞っていて申し訳ありません。
このブログの記事は代打ちしてもらって作っています。 説明図が描けないので、文面だけでわかりにくいですがご勘弁ください。

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●デジタルカメラはFが暗くても大丈夫! なので眼視用を使う

フイルム時代は「低照度相反則不規」という大きな問題がありました。 一般写真の被写体の明るさが半分になれば露出を2倍かけて適正露出(当たり前!)という相反則が、星野のように暗い被写体の長時間露出では当てはまらないのす。 フィルムの相反則不規は数秒露出から始まって、露出をすればするほど顕著になります。 だんだん感度が減ってゆく感じですね。 F4よりも暗くなると1時間以上の露出をしても満足に写らなくなり、とても非生産的な撮影作業でした。
しかし、デジタルカメラには相反則不規は皆無で、撮影レンズのFがいくら暗くても、それに応じて露出時間を長くすればちゃんと写ります。 がんばって長い露出時間に挑戦する価値があります。

●口径の分解能やFの明るさは無関係、焦点距離で写りが決まる
極限等級や細部の描写力は焦点距離に依存するので、長い露出をすることさえいとわなければ、眼視用の長焦点望遠鏡は細部まで描写した見ごたえのある写真が得られます。
暗いFが多い眼視用望遠鏡は自ずと焦点距離に比べ口径が小さいです。 しかし、大口径や高性能な望遠鏡の余りある分解能は直焦の星野写真には必要ありません。 撮像素子がそこまで解像しないからです。 小口径であっても、眼視の高倍率ではシャープに見えない性能の良くない望遠鏡であっても充分使用できることも多いです。

以上の理屈や、眼視用を星野写真に転用する際の収差の問題などは、今回は体調が悪く代打ちのため図示できないので、とりあえずは作例をご覧ください。

●セレストロン製C14型口径35cm F10シュミットカセグレンの作例
おおぐま座のM101回展花火銀河(画像をクリックすると拡大されます--以下同)
中古で15万円で買った鏡筒に凹みありのボロボロのC14シュミット・カセに、自作4枚玉補正レンズを付けて口径35cm F7 焦点距離約2700mmで撮影。 十数年前の写真なのでデータは忘れましたが、冷却カメラはたぶんSBIG社のST8で3色分解撮影です。
今の高性能のカメラなら、この半分くらいの大きさの望遠鏡で同様な写真を撮れるはずです。

おおぐま座のM51子持ち銀河
子供の銀河の周囲の淡い部分も描写しています。 Fが暗くても相応の露出時間をかける(一般写真の絞りと露出時間の関係と同じ)ことで、淡い部分も星野写真用のFの明るい望遠鏡とまったく遜色なく写ります。
子供銀河の左上に渦巻銀河を真横から見た小さな銀河(NGC4565と似ている)があります。 星爺はこの銀河の写り具合を評価の基準にしています。 まったく写らないことも多いですが。

りょうけん座のM106 右上はNGC4248で眼視光度12.59等 視直径 2.0′×0.9′
中央部の暗黒帯の分解が難しい被写体です。メインの銀河だけでなく、周辺の小さな銀河の写り具合を見るのも、眼視用長焦点の醍醐味です。

●眼視用30cmクラスのニュートン反射による作例
昔々、反射望遠鏡の定番だった口径が大きくF6~F7との暗めのニュートン反射は、長くて邪魔だと今ではあちこちで敬遠されているみたいです。 でも、光学系の精度が高く惑星の観測には最適。 星野写真の性能も露出さえかければ非常に素晴らしいです。

下の写真は、兵庫県は淡路島の「鳴門タクシー天文台」の台長 沼田浩孝さんが愛用する口径30cm F6ニュートン反射望遠鏡。 赤道儀はアスコ260型。 星野写真から月面惑星まで撮影されています。 ワンちゃんが飛び上がった瞬間を撮る飛行犬やドローンでも著名なプロの写真家さんです。
鳴門タクシー天文台は一般公開もされていますのでお問合せください。
https://www.narutotx.com/

オリオン座の馬の暗黒星雲
口径30㎝F6反射望遠鏡 カメラはAPS-CサイズのEOS Kiss X3改造機 ISO 3200 露出2分x30枚合成 鳴門タクシー天文台にて2年前に撮影したものを再処理。
小ぶりなAPS-Cサイズのためか、周辺までシャープで非常に解像度の高い馬の首です。 焦点距離1800mmの威力と言えます。

下の写真は、竹内 康さんの豪華な別荘の観測所です。 弊社の自動導入装置E-ZEUSⅡが装着されたミカゲ光器製210B赤道儀を中古で入手され、手を加えて実践に投入する準備中です。
鏡筒は口径30cm F6 です。 ニュートン反射は周辺のコマ収差がFの2乗に反比例して増え、焦点距離くらいの凹像面弯曲があります。  計算上は、30cm F6はフルサイズカメラの周辺で、許せる範囲のやや甘い星像になります。 そのため補正レンズは強いて使う必要はないでしょう。
焦点距離が長いとシーイングの影響が大きくなるので、少しの試写では判断しにくいですが、下のM1の写真で皆さんはどう思われますか?

おうし座のM1カニ星雲
テスト撮影なのでキヤノンEOS6Dを直焦に取付けてISO3200で30秒露出。 眼視用望遠鏡はふつうは斜鏡が小さいので、この望遠鏡も斜鏡の大きさ不足とマウントと思われる周辺減光が生じています。上の黒い影のケラレは跳ね上がったミラーの裏面。 明るい視界の中心が右側に寄っているのは、斜鏡を偏心取り付けしていないためと思われます。
このまま周辺のトリミングを前提にフルサイズのEOS6Dを使うか、ひと回り小さなAPS-Cにするか? もっと小さな冷却CMOSか? 大きな斜鏡に交換すべきか? テストでいろいろわかります。

※直焦の写真に必要な斜鏡の大きさを図で簡単に求めるには…。
底辺が主鏡直径で高さが焦点距離の二等辺三角形を描き、次に斜鏡の中心から焦点までの距離を実測して、その距離を高さにした相似三角形を描きます。 その三角形の底辺が 「視界の中心にのみ100%の光が来る」 斜鏡の大きさ(短径)です。 この短径に撮像素子の大きさ(画面の対角)を加えたのが周辺減光の無い斜鏡の大きさになります。
思いのほか大きな斜鏡が必要なので、多少の周辺減光には眼をつぶるべきと思います。

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●今年は健康に気をつけて頑張ります2018/01/24 01:32


●大マゼラン雲と斜め左に小さく見える赤いタランチュラ星雲。
最近は観賞用の写真を撮影していないので、一昨年のオーストラリア遠征時の作品です。 ポータブル赤道儀は弊社の JILVA-170より小型のユニテック社のSWAT-350を使用しています。
オリンパス100mm F2  ISO1600 EOS Kiss X5 絞りF4で6分露出×6枚コンポジット EOS Kiss DigitalX(天文改造)絞りF4で6分露出×5枚コンポジット EOS Kiss DigitalX にHα干渉フィルター(天文ガイド製半値幅20nm)絞りF2.8で7分露出×4枚コンポジットを処理後に合成
SWAT-350によるノータッチ追尾 撮影地:オーストラリア ゴールドコースト

◆最近の健康状態
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昨年の9月からブログを更新できませんでした。 その後はある程度小康状態を保っていたのですが、昨年末から1月22日まで、1ヶ月ほど寝込んでしまいました。  左眼は手術後に何回か眼球の直接注射をしています。 インターネットの閲覧はできますが、メールなどの文字列を見ると激しく嘔吐してしまい(精神的な問題もあるようです)、頂戴したメールに返信できず、各種製作も遅れて、たいへんご迷惑をおかけしています。 深くお詫び申し上げます。
今現在はかなり快調なので、メールのご返事や遅れている作業をこなすようにいたします。
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●ユニテック(株)社長、加曽利哲也さんの作例
ブログ更新の機会に加曽利さんの作例をお目にかけます。 ユニテック社のポータブル赤道儀SWATシリーズも弊社(株)輝星のSB工房が製作しています。 ポタ赤は補助的な簡易赤道儀として使われることが多いですが、「天体写真撮影機のポタ赤こそ高精度な追尾が必要」とのコンセプトで設計/製作し、どれくらいの望遠レンズまで手放しノータッチ追尾ができるかがポタ赤の命と肝に銘じています。
弊社のPanhead EQJILVA-170とSWATシリーズのウォームギヤまわりの基本構造は同じです。 なのでウォームホイールの直径に比例して追尾精度が向上しています。 例えばSWAT-350(ウォームホイール約φ110mm)は全品検査でPモーションは±7″前後のため、300mm望遠レンズの長時間ノータッチガイドが可能。 JILVA-170(ウォームホイール約φ170mm)はPモーション±4~5″で400mm望遠レンズのノータッチ追尾が可能です。 ほっておくだけのノータッチ追尾は“楽で楽で”やめられません!
左の写真はJILVA-170のウォームホイールで、その左の小さなウォームホイールはφ56mmのPanHead EQ用。 右の写真は左から、SWAT-200の内部ユニット、SWAT-350、試作品のJILVA-170軽量タイプ。

●M45プレアデス星団と周辺の分子雲 (画像をクリックすると拡大されます)
シグマ APO 300mm F2.8 絞り開放 キヤノン EOS 6D(SEO SP-4改造) ISO1600 2分露出×96枚 ハイライト部分に短時間露出を合成 Photoshopで画像処理 SWAT-350によるノータッチ追尾 撮影地:千葉県大多喜町

光害の少ない場所ほど淡い天体が見えるので、星野写真は星空の良さに応じて淡い被写体まで写った高品質の作品を撮影できます。 空が良ければ天体改造をしていないカメラでも、Hαの赤い星雲がそこそこ写ったりします。 日本の星空はどこに行っても光害だらけなので、星爺は最近20年くらいは国内で本気で星野撮影をしたことがありません。
しかし、デジタル時代の大きな利点は「多数枚コンポジットをすれば光害の中から画像処理で淡い天体をあぶり出せる」ことです。 空の悪さは関係なくなった! と言い切っちゃいましょうか!?
加曽利さんの撮影地は郊外ではありますが、星爺なら絶対に行かないほど光害の多い場所です。 それでも多数枚コンポジットで、非常に淡い分子雲まで捉えていることに注目してください。 極端に言えば、デジタル時代は大都会の真ん中でもコンポジットの枚数を圧倒的に増やせば、星野写真を撮影できるのです(画像処理はかなり難しくなりますが)。

●散開星団 M46とM47(NGC 2422)付近(画像をクリックすると拡大されます)
シグマ APO 300mm F2.8 絞り開放 キヤノン EOS 6D(SEO SP-4改造) ISO1600 2分露出×14枚 ハイライト部分に短時間露出を合成 Photoshop、FlatAideProで画像処理 SWAT-350によるノータッチ追尾 撮影地:千葉県大多喜町
散開星団が被写体なので、上のプレアデス星団と周辺の分子雲の写真とは逆に、淡い分子雲は描画しないようにバックを暗くした画像処理を施しています。
明るい星の色が出るように高輝度の星には短時間露出を合成、さらにFlatAideProという星野用の画像処理ソフトで輝星を大きくして味を出しています。 ノータッチ追尾の正確さにも注目してください。

●SWAT-350にドイツ式赤緯ユニットを介してBORG107FLを載せた加曽利さんのシステム。
135mm望遠くらいまでは自由雲台1個で搭載、200mm~300mm望遠レンズはアクセサリーの赤緯ユニットなどを介して搭載するのが一般的な使い方です。 300mm望遠くらいまではSWAT-350の優秀な追尾精度を活かしてノータッチ追尾。 500mm望遠やBORG107FLの場合は、バランスウエイトのあるドイツ式ユニットを使用。 M-GENで赤経のみオートガイドを行なっています。

●M31 アンドロメダ大星雲(画像をクリックすると拡大されます)
シグマ 500mm F4 Sports 絞り開放 キヤノン EOS 6D(HKIR改造) ISO1600 3分露出×39枚 ハイライト部分に短時間露出を合成して星の色を強調  Photoshopで画像処理 SWAT-350+M-GENによる赤経1軸オートガイド 撮影地:山梨県上野原市
アンドロメダ大星雲を強調するため、淡い分子雲は描画しないようにバックを暗くした画像処理を施しています。 コンポジットの枚数も少なめです。 最近の望遠レンズはなかなかシャープですね(このレンズは80万円ですが)。

●M42 オリオン大星雲と周辺の分子雲(画像をクリックすると拡大されます)
BORG 107FL+フラットナー1.08×+ HEUIB-IIフィルター 合成焦点距離 648mm/F6.1 キヤノン EOS 6D(SEO SP-4/HKIR改造) ISO1600 5分露出×16枚+3分露出×86枚コンポジット ハイライト部分に短時間露出を合成 Photoshopで画像処理 SWAT-350+M-GENによる赤経1軸オートガイド 撮影地:千葉県君津市/山梨県上野原市 
周辺をトリミングして拡大しています。 星爺の好みで淡い分子雲まで描画する画像処理を強めに施しています。 口径107mmの107FLは2枚玉のアポクロマートですが、紫色のg線のボケがずいぶん少ない設計のようです。 軽いので星野撮影には適していると思われます。

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●アメリカで起こった皆既日食2017/08/27 18:55

●焦点距離1296mmによるコロナの詳細画像(土生祐介さん)
8月21にアメリカで見られた皆既日食の写真をご紹介します。 星爺は体調不良で行けませんでしたが、弊社(株式会社 輝星)社友の土生祐介さんが見事な写真を撮影されました。 土生さんは弊社のポータブル赤道儀(PanHead EQ、SWAT-200/300/350、JILVA-170)の駆動回路とプログラムを開発していただいている人で、画像処理のプロフェッショナルです。
皆既日食の撮影にはフルサイズカメラに焦点距離500mm~700mmくらいが適すると言われます。 しかし、色彩のないコロナの細部の諧調を捉えるには、ずっと長い焦点距離で分解能を確保することが重要。  これは印刷でも同様(もっと表現しにくい)で、以前、雲の写真集を制作した際にも白い雲の諧調を確保するのに苦心した経験があります。
この写真はBORG107mm屈折+フラットナー+Canon2倍エクステンダーの焦点距離1296mm F12.1とかなり長くして撮影しています。 カメラはCanon EOS5DMKⅡ改良型で自作の自動制御装置を取付け、赤道儀はVixen SP赤道儀の極軸のみを改造して使用しています。
ISO800にて露出時間は1/2000, 1/1000, 1/500, 1/250, 1/125, 1/60, 1/30, 1/15, 1/8, 1/4秒の連続撮影、皆既前半の121コマの画像を合成して得られた写真です。
望遠鏡で観察した感じに写っている内部コロナの構造に注目してご覧ください。 黒い太陽に見え始めている地球照による月面の模様の処理は未だのようです。

◆最近の状況
先々週は、また両足の具合が悪くなり10日間ほど歩けなくなっていました。 眼が不調でこのブログも代打ちを頼んでいます。 お問い合せのメールの返信も滞って申し訳ありません。 先週は眼の手術をしました。 体のあちこちにガタがきて 「終活を急がねば」 と弱気にもなりましたが、気合を入れて奮起し、「孫娘の結婚式にTemptationsのMy Girlを歌うんだ!」と大きな目標を立てました。
JILVA-170は申し訳ありませんが未だ残り20台が未納です。 1日に2台づつ生産できていますのでもうすぐ完了になる予定です。 ユニテック社のSWAT-300/350は、このところの悪天候でPモーションテストが滞っており、何台かバックオーダーとなっています。
必ず復活して生産と新製品の開発に邁進しますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

●皆既日食の連続写真(牛丸幸平さん)
超広角レンズで5分毎に露出した皆既日食の様子。 地平線の夕焼けや空の暗さが実際の皆既日食の雰囲気を醸し出しています。
牛丸さんはウエスト彗星(C/1975 V1)の見事な写真を撮影された伝説の名手です。 岐阜県のご自宅のドームに弊社の自動挿入装置E-ZEUSⅡを装着したアスコの30cm赤道儀で活躍されています。

●フルサイズ換算400mmによる広がったコロナ樋口達治さん
フォーサーズのOLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡに200mm望遠レンズなので400mm相当の広い画角です。 コロナはこんなに周辺まで伸びています。 太陽活動極小期の変化に富み東西に部分的に伸びた独特のコロナをご覧ください。
このカメラにはカメラ内部にHDR(ハイダイナミックレンジ)処理を自動で行なう機能がありますが、今回はそれを使わず後でHDR処理をするための「HDRブラケット」の機能で多段階露出をしています。
樋口さんは皆既日食は初めてのご経験ですが、30年以上前に『天文ガイド』誌で素晴しい天体写真を発表された大ベテラン。 このたび弊社のJILVA-170もご注文いただきました。

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●最優秀作品、おめでとうございます!2017/07/04 05:51

●前回のブログでご紹介した山本 整さんが、
誠文堂新光社 月刊天文ガイド8月号「読者の天体写真」の応募作品 「スマホコリメート法による木星」で最優秀作品を獲得しました! 本当におめでとうございます!

大半の読者は「スマホで撮れたから入選したのだろう」と思われるかもしれません。 しかし「読者の天体写真」は、安価な機材で頑張ったからとか、初心者が努力したから入選とかは全くありません。 作品の出来のみを評価することが最もフェアな選考基準だからです(今でもそうだと思います)。 山本さんの作品は見事な木星画像が評価された堂々たる最優秀作品ですね!
編集部の慧眼と批評の先生の的確な解説に敬意を表します。

このところ星爺は体調が非常に悪いので(後述)、スマホコリメートについてはしばらく経ってからご説明をさせて頂く予定です。 嬉しいニュースなので取り急ぎご報告と簡単な説明をします。
月面や惑星の拡大撮影には様々な手法があります。 カメラでアイピースの中を撮影する「コリメート法」は、昔は「一眼レフカメラを持っていない初心者向けの撮影法」とされていましたが、決してそうではありません。 レンズ構成が多くなるので実際は最も難しい手法です。 スマホのカメラはかなり優秀ですが、レンズが小さいので短焦点のアイピースと組合せるには光軸調整に高度な技術が必要です。 独特の自動露出や動画転送は便利な反面制約も多く撮影には苦労が伴います。

入選作品は汎用のスマホ用アダプターを使っていますが、現在は星爺の作ったこのようなシンプルなアダプターを使っています。 ワンタッチで光軸が精密に合います。 スマホカメラが端に付いていてバランスが悪いので真鍮のバランスウエイトが付いています。 天頂プリズムを併用しています。
望遠鏡はタカハシTSA120型口径120mm 焦点距離900mmの屈折望遠鏡。 現在は様々なバーローレンズやアイピースを試して、さらに明瞭に写す工夫をしている最中です。

月面の静止画撮影は撮像素子の小さなスマホカメラでは、拡大率が低くて像が明るいため(35mm判の数倍)高速シャッターを切ることができ、シンチレーションの影響が少なくシャープに写ります。
もしかしたら、これからは月面の静止画撮影は「スマホに限る!」という新常識が生まれるかもしれませんね。(画像をクリックすると大きくなります)。

スマホで月面が良く写ると言っても惑星は条件が異なるので月面とは全く異なる手法を用います。惑星の場合は拡大率が大きく、シンチレーションで常にブルブル震えているため静止画ではダメ。 最優秀作品のように動画を撮影して数千枚のカットをウェーブレット処理します。 動画撮影はスマホカメラは制約が多くWEBカメラに比べずいぶん不利なので、これをどう解決するかが今後のテーマです。


●眼の健康にはお気をつけください
持病の影響なのか無理をしすぎたのかは不明ですが、片方の眼が突然大きく歪んで暗く見えるようになってしまいました。 この文面も片眼で打っています。 遠近感がないためか1時間も作業をすると吐き気と目眩でダウン。 何時間か寝てまた1時間作業…、を繰り返しています。 SB工房のお問合せのお返事も10日ほど滞っていて 申し訳ありません。
このまま見えなくなってしまうのか? という恐怖もありますが、JILVA-170などの生産が遅れているので、作業を優先して手術は順延してもらっています。
眼が悪くなったら星を楽しむどころではありません。 皆様も眼の健康にはお気をつけください。

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●スマホによる月面撮影2017/04/14 03:44

●最初に業務連絡です
JILVA-170の生産は順調でしたが、また持病の発作が頻発して納品が遅れ始めました。 お待たせしているお客様には本当に申し訳ありません。
ナンチャッテ正立極望をご注文いただいたリストのデータベースが不調のようです。 この2ヶ月以内にお問合せいただいた方で商品未着の場合はお知らせください。

●明るい月面ならスマホで撮れない理由はない!
このようなことを10年ほど言い続けているのですが、誰ぁ~れも信用してくれません(笑)。 が、縁あって山本 整さんがスマホ撮影をしていることを知り、いろいろ協力させていただいています。 山本さんは 私の息子達よりも若い自称初心者の天文ファンです。 年齢に関係ないお付き合いのできるのは趣味ならではの楽しみですね!
まずは作例をご覧ください。 山本 整さんの撮影で最終的な画像処理は星爺が行なっています。 好みで眩しい感じに仕上げています。
望遠鏡はタカハシTSA120型口径120mm 焦点距離900mmに1.6倍バーローを付けて焦点距離1440mm F12 ニコン5mmアイピースとギャラクシーS7スマホによるコリメート法です。
「スマホで撮ったなんてウソだ!」 と疑われるほど良く写っていると思いませんか?

こちらも山本 整さんの撮影。 下に月面撮影の第一人者であるユニッテック(株)の加曽利社長(ポタ赤SWATなどを販売)が偶然同じ日に 口径107mmアポクロマート屈折をポタ赤SWAT-350に搭載してキヤノン6Dで撮影された素晴らしくシャープな月面を掲げます。四角枠内を比べてみてください。

光学系はこのように組んでいます。 コリメート法ですがスマホのカメラレンズの焦点距離は5mmくらいなので、タンデムリレー系ではほとんど拡大していません。 下の写真はTSA120屈折をビクセンの赤道儀に載せたところ。 天頂プリズムを使用しています。 都内の光害の多い場所。

●コリメート法の要点
スマホカメラでの撮影は、必然的に「コリメート法」になります。 コリメート法は初心者向けとされていることから(?)、詳しく解説されたことがないようなので、この際に要点をまとめます。
コリメート法は、アイピースを「コリメーターレンズ」に代用するテレセントリックのタンデムリレーです。 望遠鏡の直焦点の像をアイピースとカメラレンズでリレーして撮像素子に投じるので、アイピースの焦点距離とカメラレンズの焦点距離の比率で、撮像素子上の像の大きさが決まります。

肉眼の代わりにカメラレンズで「アイピースをのぞく」のがコリメート法ですが、アイピースのアイレリーフとカメラレンズの主点を正確に合せないと収差が発生します。 つまりアイピースとスマホカメラレンズの間隔がとても重要です。  上の図のようにカメラレンズを中心にしてレンズを傾けても、像が動かない位置が主点同士が正確に合った位置です(スネルの法則による)。
※このことに言及した書物は無いようで、間隔調整を能率的にできるアダプターも無いようです。

アイピースとカメラレンズの中心も正確に合せないと収差が発生します。 カメラレンズの大きさに反比例して中心合せがシビアになるので、レンズのとても小さなスマホカメラでは深刻な問題です。 作例の下の方で二線ボケが認められるのは、中心合せが不正確なためと思います。
※肉眼でのぞく場合は意識せずに中心や主点の合った快適に見える位置に眼がいきます。 が、眼視の経験から眼の代わりにカメラを使っても同じだ…と思っちゃうのが落とし穴ですよ!

アイピースをのぞいて肉眼でピントを合せると、健常眼では25~30cmの距離にピントが合います。 本来は無限のピントに合せてカメラレンズも無限にしないと収差が発生し、ピントの深度も浅くなります。 しかし、オートフォーカスを利用するなら、肉眼でピントを合せた方が便利かもしれません。

●スマホカメラで月面が良く写る理由

スマホカメラの撮像素子は非常に小さく、35mm判フルサイズカメラの1/6くらいしかありません。 そのため、画素も非常に小さくて基本性能が低く、きれいな写真を撮るには不利なのですが、カンカン照りの日中の風景ならばフルサイズに遜色のない描画をしますよね? スマホでも月面が良く写る理由はこれ 被写体がカンカン照りの風景なみの明るさなら、普通にきれいに写るのです。

フルサイズカメラで月面を強拡大すると、像が薄れてずいぶん暗くなってしまいます。 そのためシャッター速度も遅くなります。 しかし、フルサイズと同じ構図なら、スマホカメラは1/6の拡大率になるので像の明るさは36倍にもなります。
上の図のように、今回の作例の装置ではタンデムリレーはほとんど等倍なので、撮像素子に投じられるのは1440mm F12の像です。 月は太陽からの距離が地球と同じなので、カンカン照りの日中の風景と同じ明るさです。 F12ならばISO感度100で1/125~1/250のシャッターを切ることができます!
35mm判フルサイズ換算では、焦点距離8640mm F12相当とスゴイことになっているわけですね。

●スマホカメラの問題点と可能性
スマホカメラの仕様/機能は千差万別で性能にも差があります。 今回は高性能なギャラクシーS7(上の写真)を使ったのも成功の鍵と思います。 
市販のスマホカメラのアダプターは初心者向けの汎用型です。 主点合せや中心合せがやリにくいので、スマホを正しく装着できるオリジナルのアダプターを製作する必要はあるでしょう。 
スマホカメラにはオートフォーカス、自動露出、ボカシ撮影、カメラ内部の画像処理など多くの便利機能が搭載されていますが、 これらの機能が便利なこともあれば不便なこともあるので、うまく使ったり使わなかったり、「カメラの機能を騙して使う」ような工夫も必要になります。

動画も撮影できるので、惑星撮影のウェーブレット処理もうまくゆく可能性があります。 ただし、パソコンに動画を転送する際に、スマホの動画は劣化が大きな問題となります。惑星は月よりも暗い(大接近時の火星は反射率が高く月より明るい)ので像をもっと明るくするため、望遠鏡は口径20cm以上が望ましいかもしれません。

この装置の1.6倍バーローを外して元の焦点距離 900mm F7.5にしてアイピースを25mmに交換すると、タンデムリレーで約1:5 に縮小されて 7.5÷5=合成F1.5 と非常に明るくなります。 ただし、このスマホカメラのレンズはF1.7なので、うんと縮小しても光線がケラレてF1.7以上には明るくなりません。
このようなリレーレンズは、両方とも同じレンズの場合はタンデム(連結、二人乗りの意味)リレーと言われます。 本稿では片方のレンズが異なっても便宜的にタンデムリレーと称します。 縮小する場合は、縮小光学系とか縮小コリメートと言われることが多いです。
このようにすれば、明るい惑星状星雲や球状星団などなら、スマホカメラで案外写る可能性もあります。 そこそこの写真が撮れてしまったら痛快ですね!
↓下にこのような縮小コリメートの作例を掲げました。 スマホでなくコンデジのPanasonic LX-7の作例ですが、合成焦点 F1.4の威力がわかると思います。

いずれにしろ、スマホだから、初心者向けのコリメート法だから、と簡単に考えずに理論から導いた正しい使い方と装置を確立したいものです。 山本 整さんとタッグを組んでやってみます。
皆さんも、とりあえず明るい月面でスマホ撮影を試してみませんか?

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●●縮小光学系による星雲・星団(2017_04_18追記)●●
コメント欄に北杜の犬さまから縮小光学系の話題をいただきました。 今後のネタの予定でしたが、前倒しで作品を3点お目にかけます。 撮影は小惑星ハンターとしても名高い平澤正規さん。
いて座の散光星雲 M20 25cmF5.6反射にXW20mm+LX7でF1.4。 ノータッチガイド 露光時間は被写体に合わせて40秒~ 1分と短くてOK。 4枚ほどコンポジットしています。 以下はデータ同じ。
いて座の球状星団 M55 まばらで地味な球状星団ですが、たっぷり露光でハデに写っています。
おおぐま座の M109と周辺にたくさんある小さな銀河。 好条件だと19等の銀河が写ります。


星雲・星団にはスマホではなく、コンパクトデジタルカメラのPanasonic LX-7を使います。
10年ほど前から星爺が平澤さんや有志の皆さんと取組んでいる手法で 「縮小コリメート」 と称しています。 原理はスマホの解説と同様で、タンデムリレーの縮小率を1/4.25と大きくして、LX-7の 4.7mm F1.4 を生かせる明るさにしています。 撮像素子が小さくて、レンズが明るくてシャープで、マニュアル操作が豊富なカメラが適しますが、LX-7以外にはなかなか目的に叶ったカメラがありません。 いずれ詳しく発表しますが、今回はとりあえず作例写真と構想を練っていた頃の概念図をご披露します。
光学系が複雑になるので欠点も多く、これからも改良を続けねばなりません。 でも、F1.4の非常に明るい光学系は撮影失敗もなく、楽で楽でやめられません!  ふつうの長時間露出の直焦点撮影はバカバカしい?(笑) 平澤さんは短期間に500カットほどの作品を撮影されました。


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