●中国の望遠鏡メーカー2015/07/10 10:22

「星爺から若人へ」は中学生くらいを対象としています。

●星爺は最近テレビ放送で多くなった日本礼賛の番組が大好きです。
『所さんのニッポンの出番』 『cool japan発掘! カッコいいニッポン』 『Youは何しに日本へ?』 や、町工場のスゴイ技術を紹介する番組等など。その根底にあるのは夏目漱石に端を発する白人コンプレックスと思わないではないけれど、番組を見れば気分が良いですからね!

未来学者ハーマン・カーンを尊敬していた時期もあるし、社会学者エズラ・ヴォーゲル著の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』には心が踊りましたね。日本ガンバレです。

小学生の頃は、銭湯で鉄工所や溶接工場のオヤジ達から空襲の体験やシベリア抑留の話をマジメに聞いて可愛がられ、工場へ遊びに行って教わったことが天体望遠鏡の自作にとても役立ちました。タダでたくさんモノを作ってもらったし,以来、町工場には憧れています。
「町工場のオヤジって頑固なだけで理論付けされた技術は無いな」 と思っても、下町ボブスレーを見て 「勝負の世界は甘くはねーよ」 と思っても、中小企業や町工場は応援したいです。

『永遠の0』にも感動! クリスティーナ・ロセッティの詩とからめるなんて粋な脚本だ! ゼロ戦はパイロットを銃弾から守る分厚い鉄板を省略したから、軽量で性能が良かっただけなんて説もあるらしいけど、そんな理屈は不問にしましょう。

新幹線の安全神話というのも、「ガソリンを簡単に持ち込めて安全もクソもねーだろ」 と思っても、やっぱり新幹線は世界一ですよね! 新幹線開業の1964年は東京オリンピック。星爺は前夜祭で鼓笛隊の太鼓を叩いてました。次の東京オリンピックまで、なんとか生きていられたら良いなぁ。

はやぶさ(第20号科学衛星MUSES-C)は失敗したことの方が多かったのだから、礼賛するばかりでなく、せめて科学雑誌や天文雑誌は公平な記事を作らないのか? と思っても、「失敗のことなど記事にする必要はないか…?」 と思い直しますね。 とにかく星爺は日本人だし、我が国は好きですからね。 愛国心かな? でも愛国心は近隣諸国をバカにする傾向がありますね。

……と、ここまで書くと 「下手な前振りをするな!」 とバレてしまいそうですが、本心は日本人や日本の技術はスゴイなんて、浮かれたり礼賛番組を作っている場合ではないと思っています。
日本の半導体技術が近隣諸国に後れを取っていることは、かなり前から工業新聞には載っていて、最近は経済新聞も同じ論調。日本の自動車は安全性で韓国に抜かれたみたいですしね。
それなのに、なにゆえ自画自賛、手前味噌、我田引水の日本礼讃か?

長々と書いたのは、心地よい報道に隠れて軍靴の足音が聞こえる気がしてならないからです。町工場をおだてるのは戦前に貧しい工場労働者を「工場戦士」言ったのと同じ、「竹槍でも戦える」と喧伝したのと同じだと警戒してしまいます。 ジャパン・アズ・ナンバーワンも戦前の 「日本人は一等国民」 と同じ……?

業界の人はとっくに知っていることですが、今回は天文少年少女の皆さんに、天文ファンには粗悪品と思われている(実際に今はそうなのですが)中国の望遠鏡メーカーの技術をご紹介します。秘密のこともあるので、双眼鏡メーカーと望遠鏡メーカーの4社のスナップを、ごちゃ混ぜにしてご紹介します。この業界でも日本の優位性が失われていることが如実にわかると思いますよ。
※なお、天体望遠鏡は今も昔も日本製も海外製も主流は玩具で、トンデモ望遠鏡もたくさん出まわっています。今回ご紹介するのは玩具系ではない、しっかりした光学メーカーです。
     中国でもっとも大きい望遠鏡専門メーカー。総合大学のような建物でレンズや反
     射鏡の研磨から金属加工まで一貫生産するのが中国のメーカーの特徴です。
     無塵室専用服を着せられて対物レンズ組立てセクションに入るところの星爺です。
     オートコリメーションテストのセクションでは普通の服装が許されています。
     左に少し写った建物が機械加工の建物で右側がレンズの研磨などを行なう建物。
     右の写真は敷地内の従業員の宿舎。従業員はすいぶん厚遇されているようです。
     異なるメーカーのショールーム。両社とも自社ブランドより相手先ブランドの製品
     の方が多いらしい。日本でお馴染みの望遠鏡もたくさん見かけます。
     口径25cmと30cmのリッチー・クレチャン望遠鏡。これは試作品で、相手先ブランド
     はこの時点では未定。どこかの国から売り出される(た)のでしょうか?
     30cmマクストフカセグレン望遠鏡。右は15cm屈折望遠鏡の豪華な接眼部でプロ用
     の顕微鏡とよく似た遊星ギヤ式微動のラック&ピニオンギヤはスムーズでした。     
     左は小さなパーツを作るNC加工装置。右は倒立型のコリメーターで、アイピースの
     チェックをしているところ。どのメーカーも検査機器はひじょうに充実しています。
     このような大型のコーティング用真空蒸着釜がズラリと並ぶ。日本では珍しい低温
     蒸着釜もあります。右は多層膜コーティングが完了した20cmニュートン反射鏡。
     アイピースの組立て現場にはファナックのコンピュータがズラリと並んでいます。
     アイピースのレンズを落とし込みで組んだ後で芯出し調整の精度はコンピュータ
     の画面に表示されます。右は組立て前のレンズの傷のチェックです。
     アイピースも相手先ブランドが多いようです。超ワイドアイピースもあります。
     オートコリメーションテスターは極望の芯出しを行なうためのものらしい。右は3枚
     玉FCD-1硝材の本物のアポクロマート対物レンズ。これは小型の口径80mmです。
     対物レンズや反射鏡は干渉計による精度チェックを行ないます。反射鏡は数値制
     御によリ正確な放物面を研磨する技術を多くのメーカーが確立しています。
     中国の望遠鏡展示会には世界中からバイヤーが集まります。右は大学系のメーカ
     ーが出品した口径50cmのリッチー・クレチャン式望遠鏡の主鏡です。

●中国の望遠鏡メーカーの製品が、とくに赤道儀の追尾精度(こればかりは日本得意の匠の技が必要?)などでは、日本製よりも劣ることは周知の事実です。工場の規模は大きくて数百人~千人以上の社員がいますが、末端の労働者の質が高くないので、なんでもない仕上げの部分にミスや不良が散見されます。他社の製品を真似するだけで設計を吟味していないとも思います。検査設備は優れていても、不合格品はどこに流れていくのだろうか? と心配にもなりますね。 知っていても教えませんけど(笑)
しかし、中国のメーカーが少数派のハイアマチュアに向けた製品を作り始めたら、コワイですよ~。
どのメーカーにも、お約束のように若くて優秀な管理職の技術者がいます。 たいてい日本やアメリカへの留学経験がありますが、国費留学をするためには最高学府を2年飛び級する必要があるそうで、とにかく皆さん頭が良くて猛勉強する青年たちです。
日本の将来を担う若人は、諸外国に負けないように一生懸命勉強をしてくださいね。戦後に飛躍的な発展を遂げた 「光学日本」 を支える人材の出現にも期待します。
 もちろん日本人の誇りを持つことは大切ですが、日本礼讃の番組にも何事にも流されず、常に批判的な目を向けることが大切だと思います。再び 「一億火の玉」 にならないためにも……。

●業務連絡とE-ZEUSⅡのお知らせ2015/07/21 12:16

今回は「星爺から若人へ」ではなくて、ご連絡とご案内です。

●JILVA-170の出荷状況
超高性能ポータブル赤道儀JILVA-170(輸出バージョン)につきましては、多数のご注文をいただきありがとうございました。輸出品の予備在庫のパーツで組み上げるバーゲン製品のため、そろそろ売り切れとなりますので、ご入用のお客様はこちらからお早めにご注文ください。

JILVA-170は1台ごとに実際の星空でピリオディック(P)モーションを撮影して追尾精度をテストし、公称値の±4~5″の高精度をクリアした個体のみ出荷しています。そのため納期は天候に左右されますが、今年の梅雨は極端で6月4日以降は、本日(7月21日)まで一晩晴れただけです。やっと関東地方の梅雨明け宣言が出たので、今晩からはPモーションテストが進捗するものと思われます。ご注文の早い順から出荷いたしますので、いま少しお待ちくださいますようお願い申し上げます。

           2軸オートガイド用の赤緯軸や専用三脚なども鋭意開発中です

●Pモーションテストが必要な理由
Pモーションとは 「赤道儀の赤経ウオームネジ1回転周期の追尾速度の進み遅れ」 のことで、Pモーションが小さいほど長い望遠レンズまで追尾することができます。だいたいの基準として、100mm望遠レンズを追尾するためには±20″以下のPモーションであることが必要です。
Pモーションはウオームネジ周辺の加工精度が原因で発生します。その原因は一つではなく、主に下記の四種類から各々振る舞いの異なるPモーションが発生し、これらが重なりあって増長したり相殺したりします。したがって①~④の総合である最終的なPモーションは偶然の産物みたいなもので、各々の加工精度よりも悪くなることも良くなることもあり予測がつきません。個体ごとのバラツキが大きくなるわけですね。オーバーホールなどで組立直すと当然Pモーションも変わります。
  ①ウオームネジのピッチ誤差(乱れ)によるヨロメキ運動
  ②ウオームネジ軸受けの精度によるスラスト方向のブレ
  ③ウオームネジの芯出し誤差による1回転毎のトルク変動
  ④ウオームネジに付けたスパーギヤの偏芯による速度変動

昨今、赤道儀のメーカーはPモーションのデータを公表しなくなりました。個体ごとに測定しないのであれば、架空のようなデータを公表するよりずっと良心的といえると思います。しかし、ポータブル赤道儀はPモーションが生命です。Pモーションが不明では何mmの望遠レンズを搭載できるかもわかりません。そのため弊社では全個体をテストして合格品を出荷しています。
                クリックすると画像が大きくなります

●ただいまPモーションの測定中です
久しぶりの晴天でJILVA-170の出荷前のPモーション測定をしています。1回めは下の写真で12分露出のため、2週期分ちょっとのPモーションが写っています。撮影レンズは1200mmですから、500mm程度の望遠レンズならばガイディング修正無しで使えそうな精度があることが見て取れます。測定結果は下記のとおり±4.5″でした。
この後、ウォームホイールの場所を変えて再度測定します。JILVA-170の公称値は±4~5″としていますが、±5″以上の場合は不合格にして再組立てします。再組立てをすると(前述のように偶然の産物なので)一転して良くなることは多いです。悪い場合は早めに諦めて破棄処分にしています。
一晩中晴れそうなので、朝までに4台くらいは測定できそうです。


●自動導入モータードライブE-ZEUSⅡの販売
SB工房のホームページに E-ZEUSⅡの直販サイトがオープンしました。E-ZEUSⅡ用のモーターさえ取付けることができれば、小型から大型の赤道儀まで様々な赤道儀を便利な自動導入にすることができます。
今まで複数の望遠鏡ショップ様を通じて百数十台の装着実績があるので、ノウハウの蓄積もあります。10年以上ご愛顧をいただいているE-ZEUSは、今年から赤緯駆動にバックラッシュ補正機能を追加するなどの改良を施したE-ZEUSⅡになりました。
たくさんの赤道儀メーカーが精度を競い合った30年ほど昔の据付式赤道儀には、とくに適合性が良く、古色蒼然とした赤道儀を低予算で最新型に生まれ変わらせることができます。

     タカハシNJP赤道儀に取付け(左)、ビクセン ニューアトラクス赤道儀に取付け
     アスコSE型赤道儀に取付け。E-ZEUSの回路はピラーのパネルに取付け
            最近装着した60cm赤道儀用のドライバ回路と制御ボックス

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