●極望の調整について2015/06/14 20:59

「星爺から若人へ」は中学生くらいを対象としています。

●SB工房に、「ポタ赤用の極望の光軸調整をして欲しい」との依頼が10件ほど来ました。極望は3種類ありました。で、星爺は唖然としました! みんな光軸(スケールパターンの位置)が大きく狂っていたのです! 素通し穴で極軸設置をした方がマシなほど! そこで今回は中学生向けでない極軸望遠鏡(極望)のお話です。光軸調整も請け負いますので、ご希望の方は文末をご覧ください。

「ポタ赤で追尾できるのは100mm望遠くらいまで」とか「外付け極望は精度が低い」とか「ポタ赤にも赤緯軸がないとダメ」とか「ポタ赤にもオートガイダーが必須」とかの経験談やうわさ話に、「そんなはずはない! 超簡単に写せるよ!」 と思っていましたが謎が解けた気がします。あまりにも光軸の狂った極望が出まわっている…が “オチ” だったってか?(笑)  極軸設置が大きく狂っていると、いくら短時間露出でも,、赤経・赤緯の両方向に大きく流れて写ってしまいますからネ。
(株)輝星は世界で初めて極軸だけのポータブル赤道儀にオートガイダーの端子を付けたくらいで、オートガイダーは奨励します。しかし、ポタ赤の価値はどのくらいの望遠レンズまでノータッチの放っぽりぱなしで追尾できるかで決まります。それには正確に光軸調整された極望が必要不可欠です(今回のがひどすぎるのであって、露出が短ければある程度の精度で良い)。
市販のドイツ式赤道儀には、慎重にメーカー調整された極望が内蔵されています(そう願いたい?)。
輝星の供給する極望は専用の器具を使ってしっかり光軸調整済みです。なので星爺は、デジカメの星野写真撮影は長い望遠レンズでも赤緯修正の必要は感じないし、いつも放っぽりぱなしで撮影しています。もちろん追尾精度が悪い赤道儀では根本的にNGですけどね。
ポタ赤用の極望は単品のパーツとして供給されているためか? 調整をしていないか調整が下手クソすぎるのが多いようです。極望は簡単に見えても「星の位置測定器」なのですけどねぇ。
極望には様々な仕組みがありますが、今回の10件はみんな下の図のような各部が独立して調整できる上等な仕組みでした。それだけに、ちゃんと仕組みを理解して正しい手順で調整しましょう。
調整の項目は下記の2つになります。
(1) 対物レンズの無限焦点を正確にスケールパターンに合せる
まず最初にこの調整を行ないます。上の断面図の鏡筒の根元にある「対物レンズのピント調節ネジ」でやります。上の写真(クリックで拡大)は極望の光軸調整用に作ったオートコリメーション装置で見た今回調整した一例ですが、暗視野照明の赤いスケールパターンの反射像がボケボケ(そのうえ光軸がずいぶんズレてます)なのは、対物レンズの無限焦点がスケールパターンに合っていないからです。
この例では無限焦点の位置が3mm接眼部側にズレていたので、接眼レンズをのぞくと25~30cmの明視距離(下図)で見ていることになるため、星はスケールパターンよりも3~4cm手前に見えるのと同じになります。そのため眼を横にズラすと視差が生じて30′くらいは星が動いて見えました。これでは次の (2)の手順のスケールパターンの光軸調整をする以前にダメだったということです。
無限焦点位置合せの許容は厳密には0.1mm以下なのでシビアで大切な調整です。星を見てピントを合せればOKな理屈ですが、接眼レンズの倍率が低いため肉眼のオートフォーカスの影響を受けやすく、しっかり合せたつもりでもけっこう違ってしまいます。オートコリメーションでないと正確に無限に合った焦点調整はできないかもしれません。
この対物レンズの無限焦点位置の調整は、接眼レンズを前後させて見る人の視度をスケールパターンに合わせるのとは全く別ですから、誤解のないように調整してください。

(2) 風景を見てスケールパーターンを調整…鏡筒根元の焦点調整ネジが大問題

これから風景を見ながら極望を回して、スケールパターンの押しネジで風景の中心とスケールパターンの中心を合せる光軸調整を行ないます。が、その前に基礎の勉強…。
スネルの法則で対物レンズの中心を通過した光は直進します。対物レンズのセンタリング(中心合せ)が少しでも狂っていると光軸はそのままスケールパターン上の狂いになり、0.1mmの狂いは約3′と決して少なくありません。また、センタリングがかなり合っていれば、後述の光軸調整時の視界の風景は極望を回してもそんなに動きまわらないので、光軸調整は難しくはありませんが、対物レンズのセンタリングが大きく狂っていると、ほとんどお手上げになってしまいます。
(1)の説明のように今回の極望は取付基準面と一体になった接眼部から「鏡筒が生えて」いて、根元のネジで対物レンズの焦点調整ができる便利な仕組みです。しかし、鏡筒がこの調整ネジ部で曲がりやすいのが大問題です。運搬中に曲がる可能性もあります。とくにブラスチック製の鏡筒は曲がりやすく、先端の対物レンズのセンタリングが1~2mmも狂っているのがたくさんありました。スケールパターン上で1°、接眼レンズをのぞくと数cm(!)も狂って見える、とてつもなく大きな狂いです。
極望の光軸調整をするためには遠くの風景を見て(下のイメージ画像)取付の基準面で回します。このとき、鏡筒が曲がっていると先端の対物レンズは大きく首を振ります。視界の風景は対物レンズの首振り(センタリングの狂い)の量に応じて、太陽系を上から見た惑星の公転のように大きく円運動をします(いわゆるミソスリ運動)。ミソスリ運動が大きくても、動きまわる風景の中心に追従するようにスケールパターンの中心を合せればOKなのですが、そもそも視界に見える風景の光学的中心がどこなのかよくわからないし、スケールパターンの方も自転をしながらミソスリをするので、2つのミソスリ運動をピッタリ合せるなんて神業に近い調整です。
こんな状態に加え(1)の無限焦点も狂っているのを中途半端に調整したら、かえって悪くなる可能性が高く、結果として唖然とするほど光軸の狂った極望が出まわっているのではないでしょうか?
●極望の調整は十字線を合せるだけの望遠鏡のファインダーの調整とは違います。今回の極望が未調整品か、知識も技術もない人が乱暴に調整した希な例であることを祈りたいです。
こんな惨状なので、外付け極望はステーの取付部で狂って精度が悪いという都市伝説も生まれるのでしょう。ポタ赤では望遠レンズは使えないとか赤緯軸が必須というのもまた然りです。
鏡筒の根元の曲がりが大問題なので、無限焦点の調整の際には「取付け基準面に正しく直角に鏡筒を固定」する工夫が必要です(メーカー調整ではやっている?)。または、光軸の精度は多少落ちても加工精度に依存した光軸調整無しの極望、無限焦点の調整をセンタリングに影響の出にくい箇所でやる極望、対物レンズ部を基準に回す極望(ナンチャッテ正立極望がコレ)、あるいは固定したまま回さない極望、の方が良いのかもしれませんね。実際にそのような極望も存在します。
極望の調整をご希望の方は、期間限定でやらせていただきますのでSB工房をご覧ください。極望単体に限ります。多少の手間賃はいただく予定です。来週からご案内できると思います。