●極望の調整について22015/06/25 00:35

●好評だったので調子に乗って今回も極望のお話です
前回は、鏡筒の根本のネジによる対物レンズの無限焦点調整と、スケールパターンを押しネジで動かす光軸調整と、視度をスケールパターンに合せる調整のある 「上等な仕組みの極望 」の場合、仕組み(理屈)を知らずに調整したらしい、ひどすぎる光軸の極望が出まわっていて、これによりポータブル赤道儀が 「追尾精度の悪い機材」 と思われたら心外だ…という話題でした。
極望代わりの穴で極軸設置した方が正確なほど光軸が狂っていたのがたくさんあったのはショックでした。が、でもまぁ、ふつうは露出5~6分以下で撮影するので、200mm望遠レンズでも20′の精度で極軸設置ができればほぼ完璧です。追尾エラーの原因のほとんどはPモーションのせいです。

極望は単体で調整してから極軸の内部や外部に取り付けます。極軸内部に装着する場合は極軸を回しならが再度調整できるので、より正確な光軸調整ができます。といっても、極軸は意外にミソスリ運動をすることもあり、粗動回転部が追尾時に回る部分と(同軸だけれども)違う赤道儀もあるので、外付けの極望よりも極軸内蔵の極望の方が高精度に調整できると一概には言えません。。

鏡筒の根本に対物レンズの無限焦点調整ネジのある極望の場合、その根本の曲がりで肝心要の対物レンズのセンタリングが狂うなら、無限焦点の調節をした後にネジ部をしっかり固定して、鏡筒を旋盤にくわえて 「取付け基準面」 を精密に削り直せば良いのです。カメラマウントなどはみんなそうやってありますよね? それをしないなら、対物レンズもスケールパターンも「落とし込み」で装着するだけで光軸調整のない簡単な極望の方が、よほど安定して信頼性も高いかもしれません。
極望を下側から極軸に挿入するために、やむおえず現行の仕組みにした事情もあるでしょうが…。
本気で高精度の極望を作ったら10万円もしそうなので、まぁ、現行の極望は良い落とし所で作られていると言えるとは思います。
     オートコリーメーションの極望調整装置と右は調整中の赤色LED暗視野照明の
           スカイメモ式スケールパターン。マークX式も併用されている

      無限調整、光軸調整、視度調整の仕組みの付いた、もっとも多いタイプの極望
     単眼鏡を改造した ナンチャッテ正立極望は対物レンズ枠前部を削って光軸調整


●いろいろなスケールパターンがあります
北極星は天の北極から40′ちょっと離れた位置にあるので、極望の視界には北極星を離角に合った位置に導入するためのスケールパターンが必要で、様々な工夫のものがあります。スケールパターンは、大きさをはじめとする精度が充分に高い必要があります。以下に簡単に説明します。
       左がマークX式。右がナンチャッテ正立極望の調整中でコリメータの緑の指標が見える

(1) 半径40′ほどの円の周囲に目盛りを入れた(変なマーク?)だけのスケールパターンは、視界が狭くても良いので倍率を高めて精度を上げることもできます。このタイプはタカハシさんが 好んで採用しています。離角は星座早見や内装または外装の時角目盛で確認し、所定の目盛りの位置に北極星を導入するので、強いて極望を回す必要はありません。水準器を併用することもあります。

(2) 北半球では北極星を含めた3つの星をスケールパターンに合せる(南半球も類似の手法)のが、いわゆる「スカイメモ式」です。同時に離角も合せられるので、時角目盛りや水準器が不要なのが大きな利点です。広視界を得るために倍率はかなり低くせざるを得ません。

(3) 天空のカシオペヤと北斗の位置を目視して離角を合せるのが、五藤光学さんが普及させた、いわゆる「マークX式」です。時角目盛りや水準器は不要です。片方の星座しか見えない場合はやや不正確になるかもしれませんが、倍率を低くする必要がないので精度の高い方法と思います。

(4) 輝星はオリジナル極望(品切れ中)とナンチャッテ正立極望に、「こぐま座β星」で離角を目視する方法を採用しました。手前味噌ですが北極星を時計の中心に、こぐま座の線つなぎとβ星を時計の針に見立てると、かなり正確に離角の方向が目視できます。マークX式も併用しています。
光軸調整はコロンブスの卵的な発想で対物レンズ枠の前面を斜めに削って行ないます。


●カーチスデジカメ極望(DPPA法)
星爺が10年ほど前から極軸設置に興味のある天文ファンに配っているパンフを見てください。
昔、リック天文台の天文学者 HEBER D. CURTISが1922年に発表した「写真による赤道儀の調整」という論文があります。これをデジカメに応用して 「デジカメを極望の代わり」 にします。
先達に敬意を表して、英語の表記は「Digital Photographic Polar Alignment (Curtis Method)」としました。略すとDPPA(デー・ピー・ピー・エー)またはデッパ(笑)です。
パンフには、あえてヒントだけの基本的な考え方しか記していないので、これを元に応用してください。工夫次第でひじょうに高精度な極軸設置ができる可能性があります。ポタ赤用に素早く作業する工夫をして実用している人も多数おられます。極望のない赤道儀の極軸設置にも重宝です。
カメラの背面液晶には、星々の円弧の回転中心(センターマーク)を見つけるための多重円パターンや、極望と似たスケールパターンを透明シールで作って貼ると便利です。これらのパターンを液晶にオーバーレイ表示して、上下・左右・回転・拡縮の微調整ができたら理想的です。カメラの画像をパソコンに転送すれば、オーバーレイのソフトを作ることができそうですね。

星爺はDPPA法で極軸設置をするのは(信頼性は高いが)面倒なので極望の方が好きです。DPPA法は極望の代わりにするのも良いですが、装着された極望の光軸の確認と調整にも最適です。
北極星を液晶画面の離角の位置でなく「回転中心」に合せた後、極望のスケールパターンの中心に北極星が合っているか確認し、合っていなければ極望の光軸調整をして一瞬で完了します。
その極望が前述 (1) の回さないスケールパターンなら、鏡筒の曲がり、ミソスリ運動、、スケールパターンのセンタリング、極望の取付け精度、に関連する不具合は発生しようがない! すなわち、望遠鏡のファインダーのように、どこかにしっかり固定するだけでOKということになります。

すでに気付かれたと思いますが、既存の極望の定番になっている、
 ・極望を回して光軸調整を行ない、
 ・スケールパターンを回して離角設定も行なう。
 ・そのためには極軸に内蔵されていると良い。
という手法は、一石二鳥~三鳥の便法であることに間違いはありませんが、実は加工精度の高い極望が必須で呪縛も多い手法です。着想を変えれば、スケールパターンを回さない極望、極軸と一緒に回らない極望、外付けの極望は、別の意味で圧倒的な便法であることが分かりますね?
DPPA法が天文ファンの常識になったら…? 極望の将来の姿が見えてきませんか?(笑)

●蛇足ですが、「GPSで極軸設置はできないか?」との質問が何件か寄せられたのでお答えします。そのような赤道儀は20年以上前からあり便利そうなので期待されましたが、低倍率の望遠鏡で見ている天体がある程度の時間は視界から外れない程度の極軸設置精度しかありません。
GPSはカーナビのように走りながら三角測量をすれば方位も正確に出せるのですが、一箇所にとどまる場合は方位センサーを使います。方位センサーは5度程度の精度しかないので極軸設置には使えません。ペンタックスさんのアストロトレーサーにも「精度5度」と明記されています。アストロトレーサーの撮像素子を動かす追尾と赤道儀の極軸回転の追尾は異なるので、赤道儀に応用しても魚眼レンズの極軸設置精度が出るかどうか? でしょうね。方位磁石を用いた方がはるかに正確です。
しかし、赤道儀を背負って走れば可能かも…というのは冗談ですが、赤道儀からかなり離れた場所にコーナーキューブを置いてレーザー測距すれば、将来的には可能かもしれませんよ。

コメント

_ ムササビ ― 2015/06/25 09:47

ペンタックスさんの赤道儀(MS5i?)の極軸望遠鏡について、よろしければ教えてください。

私は現物を触ったことも、覗いたこともないのですが、興味深い仕様だった印象があります。

確か『正立で、ズーム式』だったように記憶しています。

私の憶測ですが、従来の極軸望遠鏡の後方にズーム式の小さなケプラー式の望遠鏡を組み合わせたものでしょうか?

私も極軸をオフセットするさいに似たような補助望遠鏡を自作したことがありますが、ズーム式とは思いつきませんでした(自作は不可能だったと思います)。

ペンタックスさんの赤道儀は素晴らしい精度だと聞いているので、極軸望遠鏡も凝った設計だったのでしょうね~。

撤退が惜しまれます。

_ 星爺 ― 2015/06/26 14:25

ムササビさんへ

ペンタックスMS-5シリーズの極望は、まず極軸の穴に極望を挿入して接眼部を固定し、対物レンズ付近を極軸の外から3本ネジで強引に押す仕組みだったと思います。一般的な極望とは逆にスケールパターンの方を基準にして、風景のミソスリ運動の方を光軸調整する手法ですが、大手光学メーカーならではの理にかなった簡単で安心な方法かもしれません。

ズーム極望の特許の公開は生産終了間際の2004年なので、実際にMS-55z(zoomのzらしい)赤道儀に装着されたのは極少数だと思います。見たことはありません。
ケプラー式望遠鏡を後方に配置するテレストリアル式は視界が狭いので使えないでしょうね。接眼レンズの前側にリレーレンズを入れて移動する簡単なズームのようです。なのでズーム比は大きくないと思います。ズームだと高倍率にして北極星をスケールパターンに合せやすく、低倍率広視界にして北極星を見つけやすい利点はあると思います。しかし、スケールパターンは同じだし星はシャープな点像に見えるので、高倍率の恩恵がどれほどあるのかな? 北極星を見つけやすいということなら、ビクセンの旧型アトラクス赤道儀には北極星の初期導入用と思われる「素通し穴」が2箇所にありましたが、これは現行の赤道儀にも採用して欲しい便利な穴です。

ペンタックスMS-5のウォームホイールは刃先円直径約216mmとひじょうに大きいことが高精度で頑丈な理由でしょう。小型でも高精度なタカハシP-2のような例外(よほど加工屋さんの精度が高い?)はありますが、追尾精度を追求すると大きなウオームホイールは「正義!」です。三鷹光器GN-170、タカハシNJP、アトラクス、など名機と言われる赤道儀はウォームホイールが大きいです。

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